見出し画像

バギーと銀杏。

ピストルが鞄の中に入っている。俺は小説の登場人物だから、それをどこかで発射しないといけない。あまり気は進まない。小説の中も世界であるから、誰かを撃てばそれなりの代償が生じる。でも、発射されないピストルが許されるほど、この世界は寛容ではない。どうせなら、作者も予想だにしないタイミングで撃とうと思う。俺ができる抵抗はそらくらいだ。嫉妬とか怨恨とか、そういう子供みたいな理由だけは避けたいものだ。

俺は駐車場のバギーに乗り、山道に向かって走る。すぐ山道に移る。道中の景色を楽しみたかったけれど、そこは必要がないみたいだ。俺はイチョウ並木の下を、銀杏を踏みにじりながら走る。臭い。都合がよすぎるくらい銀杏が落ちている。臭い。沸沸と厭な気分が立ち込める。考えさせられているんだ、と俺は首を振る。アクセルを捻り、時速は78キロまで高まる。俺はポケットのピストルに気づく。いつの間に移動していやがった。でも、都合はいいかもしれない。俺は銃口を加えた。うん、悪くはないタイミングだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?