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毎日、500gのパスタを茹でている。たっぷりのお湯を十分に沸騰させて、塩をひとつまみ。ミック…
潮が満ちていく速度を感覚的として認知できないのと同じように、昼間の眠気は自然と満ちていく…
見知らぬ街の、見知らぬオフィスを眺めることが何よりも好きだった。ビルの2、3階にある、業…
星空の下でも、僕は思いを告げることが出来なかった。星はありのままの輝きを降り注いでくれて…
またひとつ、人形が増えた。 使わなくなった筆箱。僕はチャックを開けて中を空にすると、彼女…
「どうして、まだ夢に出てくるの?」 僕は彼女に尋ねた。夢世界のカフェテリアは、テーブルと…
目が覚めると、彼は花束になっていた。 悪い冗談みたいな彼の部屋で、彼が成り果てたと思えるものは花束しかなかった。溢れんばかりのものが同居する部屋は、その事実を揺るがすくらい整頓されていて、例えば彼が何かに置き換わるという状況の対象はたくさんあった。でも私は、彼が花束になった(吸い込まれた、という表現の方が正確かもしれない)ことを、ある意味では確信していた。花束の出で立ちに、入魂のしるしをありありと感じ取ってしまった。 「もう、戻らないの?」 もちろん返答はない。彼は本来
私は生ゴミにたかる蠅なんだ、と思った。彼は正真正銘の腐った蜜柑で、そんなことは匂いからも…
ジップロックで閉じた果物を腐らせてしまった。脱ぎ捨てたYシャツとネクタイに隠れて、その存…
上京をした彼は、私の双子の妹と不倫をしていた。 「本当に、偶然だったんだ」 嘘に言い訳を…
とても印象に残っているカルデラ湖がある。山合に、まるでスプーンでくりぬいた跡みたいな湖が…
繁華街の朝方、路上には吐瀉物の水溜まりがぽつぽつと、まるで出来損ないのほくろみたいに点在…
かもめくんは、羽がないことがコンプレックスだった。 「まったく、こんなに鳥な顔をしている…
「私、幸せになっていいのかな?」 薄幸な女の声は、季節外れのヒグラシを思わせた。男は立ち止まると、苛立ちの萌芽を溜飲し、菩薩のように穏やかな微笑みを浮かべた。 「幸せはなるものではなく、認めるものだよ」 「でも、認めるのが怖いの」 不穏な風が広場に吹き上げて、いくつかの椿の花がころころと落ちた。それは見せしめの首だった。 「……あの椿で、花占いをしてみよう」 女は言葉の意味を推し測って、首を小さく傾げた。 「最後の一片が、君の選択肢だ」 「でも……」 女は