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予知夢にしては素っ頓狂な夢だった。でも、それはまず間違いなく予知夢であって、世界のどこか…
なんとなく、長く感じる60分だった。なんとなく憂鬱だった気もするし、なんとなく幸福だった気…
ダムの下に自分の生家があることを知った時、真っ先に浮かんだのは怒りではなく憐れみだった。…
現実は常にそこそこなディストピアだ。人は欲深いから、ユートピアは常に雲の向こう側にしか存…
ベクトルは消えない。僕は恋について考える時、いつもそのようなことを思う。例えば、犬派か猫…
地震で倒れた本棚を、僕はどうしても立て直すことができなかった。グラス類やポストカード、押…
僕には観念的な羽があり、観念的な大空を羽ばたくことができる! だから僕は幾度となく飛んできた。即物的な地上には嫌な事が、まるでナメクジのいる日陰に繁茂する苔みたいに溢れているけど、観念的な大空には自由があり、悦楽がある。だから僕はほとんどを観念的な大空で過ごしてきた。即物的な地上は、苦難に満ちた羽休めだった。 「何分遅れるの?」 バサッ! 言い訳をするくらいなら、飛んだ方がましだ。 「今日のシフトは?」 バサッ! うるさいうるさい。 【家賃滞納のお知らせ】 バサッ
猫の手も借りたかったから、思い切って借りてみることにした。 「力を貸してくれませんか」 …
湯船には透明感のあるサラダ油がたぷたぷに張ってあって、僕はコロッケのタネとともに浸されて…
部屋はいつも息苦しい。過去の遺失が集積しているのだ。僕の吐き連ねた二酸化炭素が、自慰のた…
男はリスを心底羨望していた。 「リスにでもなりたいよ」 男は酒を飲むと決まってその願望を…
右耳が疼く。多分、誰かが私を歌にした。こめかみが痒い。多分、誰かが私の夢を見ている。風が…
嘔吐をしている最中に、今日は君の誕生日であったことを思い出した。 いったいいつまで嘔吐を…
ヒトタケは麻や葦の付近に自生する、とても稀少なハラタケ類に属するキノコだ。人間の主に少年に擬態したキノコで(その理由はおろか、ヒトタケが毒キノコであるかどうかすら我々は知らない)、触れようとすれば忽ちに瓦解する。(ある植物学者は熱に非常に弱いことしか考えられないと言い捨てたが、真夏でもしゃんとしている) 幻覚作用は持たないと類推されているが、多くの人は幽霊なり亡霊なりと勘違いをして、発狂をする。ヒトタケに触れた人は一人もいないのに、ヒトタケを見て死んでしまった人は少なくない