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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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#一万編計画

偽尾。

彼の尻には疑いなく尻尾が生えていた。私はそれを一度引っこ抜いてしまったことがある。その揺…

啓示。

余りにも克明だった。その夢の感触は現実を越えていた。明晰夢の向こう側にあった。僕は彼女が…

偶然。

夜道、缶チューハイを気持ちよく傾けて上を向いたら、ちょうど窓から人が落ちてきた。ストップ…

マザー。

彼が静かに泣き始めると、シューマンの『謝肉祭』の一節が、まるで出来合いのテレビドラマみた…

呪詛。

「君は、雨の日に死ぬよ」 君が死神と揶揄されるゆえんは、死期を示唆する戯言が時々当たって…

髪と本と眠り。

カジュアルなボルドーワインを一本飲み干してしまうと、僕はシャワーを浴びる。一定以上の品質…

幻想的クオリア。

幻想の幻想らしさを、彼は追い求め続けている。 庭園には、蜜蜂の楽園がある。千日紅の馨しい香りがある。カーネーションのあっけらかんとした美しさがあり、鈴蘭の淫靡な毒がある。そこは幻想的な空間だった。現実感が滑らかに研磨され、間断が続く眠りで見る夢のような、虚構的な感触が毛穴の一つ一つを撫でる。冷たい風が、畏怖に似て背筋をそばだてる。その空間には彼の哲学があり、彼の弱さがあった。 「クオリア」 彼の頭はクオリアで充ち満ちていた。それは形而上学的なフレームだから、彼の頭の中は

逃運。

性格のいい悪魔は、彼女の願いを渋々受け入れた。 「本当に、知りたいんだね?」 性格のいい…

笑み剥製。

君は笑顔がとても可愛いから、僕はそれを剥製にしようと思った。 剥製の作り方はこうだ。 ①…

ノイズ・タイピング。

「すみません」 イヤフォンを外して振り向くと、見知らぬ男性が不服そうに立っていた。半袖…

カプレーゼ・ジャッジ。

「今日は、カプレーゼを作って置いて欲しいんだ」 彼が手料理のオーダーをしてくるのは初めて…

熊仮託。

木彫熊が部屋に来てから、僕の生活はとても規則正しくなった。 木彫熊は僕が実際に購入する前…

万色の空白。

「何も思いつかなかったら、その空白を描けばいいのさ」 先生は確かにそう仰ったが、私の空白…

黄泉。

「正直言ってさ、ここはまさに地獄だよ」 僕はその言葉の意味を推し測るべく、黄泉の国を見渡した。そこは瀟洒なホスピスの庭園みたいに、牧歌的な世界だった。 「確かに、見かけはいいよ」 彼女の声は、死んでいることが嘘みたいに真に迫っていた。 「でもさ、おかしいと思わない? 世界中の死者がこの場所に集まっているはずなのに、人が全然いない」 世界中の死者がこの場所に集まっている。僕は頭の中でそれを繰り返した。僕はここが彼女の為だけの世界であると錯覚していた。確かに、人は全然い