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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2022年4月の記事一覧

等身大の神様。

ビジネスブーツに遺書を差込み、僕はビルの屋上の際に立つ。最悪の人生だったが、それでも決断…

3652日。

3月30日。僕と彼女は別れの時を迎えた。 「どうして、わざわざ別の中学に行く必要があるの? …

偶然の彼岸。

川縁を歩いていたら、たまたま彼岸に辿り着いた。死んだ友人が向こう岸にはいた。 「やあ、久…

永遠の夢。

最後に悪夢を見たのはいつだろうか。それが分からないくらい、最近の夢は希望に溢れている。懐…

聖母。

男の弱さは吐息に映る。 「あなた、これまで辛かったのね」 そして、気の利く男は弱さを隠し…

3つ目の瞳。

私のうなじには、3つ目の瞳がある。普段は長い髪で隠しているから、誰にも知られていない私だ…

水の流れに逆らって。

水の流れに逆らって進んでいる。何人もの友人が、道行く人が、顔のない人までもが笹舟の上から、僕を奇妙な生き物の生態を観察するみたいに眺めている。そして、悠然と通り過ぎて行く。今ならまだ引き返せる、甘言が時に聞こえる。共に進んできた仲間は、一人また一人と踵を返し、流れに身を任せて行ってしまった。一歩の重みは、上流へ進むにつれて全身にのしかかる。 凪の世界は、ある意味では幸せなのかも知れない。平穏で、約束された生活がある。沢山の友人が、そこにはいる。しかし、そこにある幸せには流動

烏と鳩。

烏は鳩を嘲笑していた。 「鳩っていう存在は、本当にはしたないね」 「まったくだよ。人間か…

シックス・センス。

「××君って、時々宇宙人みたいなこと言うのね」 男の背筋に氷柱が走る。 「え? 」 「ま…

顔面分解。

痒くて痒くて堪らない眼球を取り出した。水で汚れを洗い落とし、布で水気を拭き取る。最近は専…

幽霊とて。

深夜の大学には、幽霊がいた。 「やあ、本当に幽霊なんているんだね」 僕は随分酔っていたの…

誓いのタトゥー。

正義はある側面から見れば、陰謀の形をしている。 「ブラザー、俺達にはそろそろシンボルが必…

花浮。

花弁が雪のように舞い落ちる。風に吹かれて、ひらひらと浮遊をする。やがて、ほの濡れたアスフ…

落下する月。

気象庁の発表に、最初は誰として耳を貸さなかった。 「この現象によって、わずかにですが月が落下する可能性があります。……そして最悪の場合の予想で、それは東京に直撃します」 それが奇妙な信憑性を帯びたのは、声明が取り下げられたからであった。どこか強権的に見えたその会見は、社会に幾ばくかの訝しさを残した。しかし、熱狂したのは一部のカルト宗教だけで、多くの人にとってそれは害 のないミームに過ぎなかった。 奇しくもピンクムーンの日、東京の人間は月の落下を確信した。秒針が時間を刻む