偶然の彼岸。

川縁を歩いていたら、たまたま彼岸に辿り着いた。死んだ友人が向こう岸にはいた。

「やあ、久しぶりじゃないか」

僕は笑って声をかけた。

「なんだい君、随分老け込んだじゃないか」

友人は、ませた十七の頃のままだ。
 
「そりゃそうだよ。こっちは社会に忙殺され始めたところなんだから」

「呆れた。君ですら、あの憎きホワイトワーカーになったのかい? 」

僕達はよく満員電車に乗る大人達を小馬鹿に、部室にある雀卓をテン3で囲んでいた。

「色々あったんだよ。こっちは不景気で大変なんだ」

「だから此岸はいやなんだ。こっちは気楽でいいよ」

僕は500mLの缶を随分開けて歩いていた。

「なぁ、聞かせてくれよ。彼岸の話を」

僕は川に足を踏み入れた。流れは緩やかで、水は母のように暖かだ。僕が歩みを辞めることなどできるはずがなかった。


「悲惨だね、まだ若いのに」

男の口から漏れ出した吐瀉物は、暈のように男の影を映していた。



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