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創作小説 シルクロードを思い出して花束を

青写真だな

心の中で呟く。
この街でシャッターを切れば自ずと青くなる。

本当の青写真の意味は図面などを複写する時に使われる写真技法のことなんだけど、ファインダー越しの世界を見て真っ先にその言葉が浮かんだ。

グーリ・アミール廟

「サラーム」
イスラム圏ではお馴染みの挨拶の声をかけられ、振り返ると6歳くらいの少年が笑っている。
「フォト、フォト」
と言いながら自分と私を指さす。
写真を撮ってということなのだろうか。

もしかしたらこの後、チップと称してお金を請求してくるかもしれない。
でも彼の笑顔を見ていたらそんな風には思えなかったし、もし仮にお金と言われても気持ちよく渡せばいい。
それくらい清々しい表情に見えたから。

彼は何も請求しなかった。

撮ったばかりの写真を確認し、そこに映る自分に満足した様子でバイバイと手を振って笑顔で去っていく。

シャーヒ・ズィンダ廟群

青の街、サマルカンド。
そう呼ばれるほどここには美しく青い建造物が多い。

レギスタン広場

28歳。婚約破棄されて数日一人家で泣き続けた。
目は腫れて痛々しい私に職場の皆は何も言わず、優しくしてくれた。
いや、みじめな奴だと笑っている人もいたのかもしれない。
涙も声ももう出ないくらいうぇんうぇん騒いだ2週間後、思い切って航空券を取った。
事前に申告していた結婚準備のための有休を無駄にしたくなかったから。

この街によく似た街の名前が出てくる好きなゲームがありずっと気になっていたのだ。
ただそれだけ。
下調べもほとんどせず訪れた初めてのイスラムの国は私が想像していたよりずっとずっと優しかった。

やっぱり聞いていた通りの青色の街だと思いながら旅をしていたが、帰国して写真を見返すと思った以上に色彩に溢れていたことに驚く。

あの時の少年が着ていた黄色のTシャツ。
ピンクの香辛料がかかった模様の付いたナン。
店先にたくさん並べれた金や赤など様々な色の刺繍のお土産たち。
市場でおばあちゃんたちが巻いている花柄のスカーフ。

そんな写真を見返していて、ふと思い立った。
駅前の花屋へ行こう。
殺風景なこの部屋に、私の日常に色彩を加えよう。

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