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【やってきたこと編】スープ屋さんの仕事【後編】

☝こちらの記事の後編です。

初めての憧れ

このお店では、スタッフ同士をみんなで決めたニックネームで呼び合う風習(?)があった。

ニックネームとは言えど、後輩は先輩をさすがに呼び捨てみたいにできないので、たとえばワッキーというニックネームだったらワッキーさんみたい呼んでた。

みんなだいたい普通のニックネームが付くのだが、
中には結構個性的な人がいて、理由を聞いてもよくわからなかった。

そんなニックネームを持つ先輩の一人が『たみー』さん。

『たみー』の由来は、どう説明したらいいのか本当に難しい(笑)

下の名前が『まい』さんで、英語の一人称『I・My・Me』のMyの次のMeと、苗字に入っている『た』を組み合わせて『たみー』になったらしい。

(この説明でお分かりいただけたのだろうか(笑))

そんな複雑なニックネームを持つたみーさんだが、この人こそが
私が初めて、仕事をする上でかっこいいと思った憧れの人だった。

たみーさんは、歳はその当時の私と1歳くらいしか変わらなかったが、
スタッフの中では中堅的なポジションで、仕事がなんでもできる人だった。
全体的に若いスタッフのお店だったけど、中でもかなり若い方に入るたみーさんは、社員さんからも頼りにされるほどの人だった。

ちなみに見た目は茶髪で長身のややギャルな女の子である。

私のシフトはたみーさんと一緒のことが多くて、
そんな日はバイトへの足取りは軽かった。
たみーさんがいれば、お店のラストまで社員さんがいることが少なく、
かなり気楽に仕事ができたのも本当に良かった。

私がたみーさんを大好きだった理由は、仕事ができるだけではなく、
失敗してもそこから巻き返す力があったことと判断が早いことだった。

たみーさんはキッチンをやることが多く、常にスープの状況や洗い物に追われていた。

ある日、残りが少なくなっているスープを補充しようと、キッチンから鍋を持って出てきたたみーさんが、手を滑らせてスープを床にぶちまけてしまった。

それはもう海のごとく広がってゆくスープ…
想像しただけでも「ヒェッ…」ってなるやつ。

私だったらもちろんパニックだ。
社員さんに謝らなきゃ、新しくスープ用意しなきゃ、掃除もしなきゃ…
何から手を付けたらいいのかわからない状態になってしまう。

でも、たみーさんはすごかった。

一瞬やばい!という顔をしたものの、
すぐさま新しい鍋を用意してスープを準備し、そのスープはしばらく10分待ちにするようキャッシャーに声をかけ、スープを用意しながら床を掃除した。

これもごく当たり前の行動だとは思う。
でも、私にはできない素早さと判断力で、すぐにその場を持ち直したのだ。

その姿を見たときに、かっこいいと素直に思った。

失敗は誰にでもあること。
でもそのあとどう行動するかは、人それぞれだ。

凹んでいてもぶちまけたスープは戻らないし、
落ち込むことと反省することは別物だ。

それ以外にも、たみーさんの冷静さとか、それでいて明るく優しかったり、
自分で判断する責任の強さみたいなところも
今思い返しても、そんな風になりたいなと思う人だった。

ちなみに、たみーさんと他の先輩と同僚と一度だけ富士急ハイランドに行ったのだが、濡れるアトラクションでたみーさんだけポジションが悪くて、
頭からつま先まで全部ずぶ濡れになってしまったとき、
我慢できず笑ってしまった後輩の私を許してくれた、心の広いお方でもあった。

いい思い出。ふふ。

初めての同僚

そういえば、初めて同い年の同僚ができたこともあった。

私より後に入ってきた同い年の子。

私は嬉しくてたまらなかった。
わからないことを教えてあげたり、お互い失敗や難しいことを愚痴ったり、
そういう存在のありがたさと言ったらなかった。

でも、その子はぐんぐん成長していった。

しも私よりノリが軽い子で、先輩たちからもいじられたり、
どんな人にもどんどん話かけていけるような子だった。

私はそこでその子をうらやんでしまった。

もしかしたら、妬みだったかもしれない。

たみーさんも、ノリのいいその子とは変顔で写真を撮ったりするほどだった。

それだけでその子のことを嫌いになったりはしなかったけど、
束の間の気楽な日々は、またプレッシャーへと変化してしまった。

どうしてもその時は、自分は自分のペースで!と思えなかった私は、
焦りからまた失敗が重なってしまったけれど、
その時短大で造形コースを履修していたので、卒業制作で忙しくなることを理由に、10か月程度でそのバイトを辞めた。

その時いろんな人(たみーさんや同僚や副店長など)が、
「ここで辞めたらもったいないよ」とか「辞めんなよ!(by副店長)」とか
メッセージを書いてくれた。

その気持ちは素直にうれしかったけど、副店長からの「辞めんなよ!」だけはなんかちょっとイラっとしてしまった。

同僚のその子もすごく寂しがってくれたけど、そういうときの私の決断はかなり固いものなのだ。

中学1年の時、半年だけ運動系の部活に入っていて、
メンバー的にも私はなじめず、そもそも私はスポ根系も向いていなかったので、半年で辞めた。

その時のことをものすごく思い出したものだ。

感じているものはこちらとあちらでは違うし、
私は私が感じたまま動けばいいのだと、その時はまだ潜在的にだけど、
きっとわかっていたんだろうなと思う。

まとめ

自分で思い返していても、あんまりいい思い出がなかった感じだけど、
それでもちゃんと覚えていることっていうのは、
今の私の基盤だったものなんだなと思う。

若いスタッフの人に囲まれて、初めての社会経験で、
世の中にはこんなにもいろんなタイプの人がいるんだなと思った。
お客さんも一緒に働く人も。

あんまり明るい話をかけなかったのが、なんとも私らしいというか(笑)

そういえば、前半に登場した料理研究家になった元店長さん、
当時私が「店長はなんでここで働き始めたんですか?」
と尋ねた時に、彼はこう答えた。

「んー俺は栄養管理士とか料理のことやりたいんだよねー
 だからここでは勉強って感じ!」

その時は、訊いておいて「ふーん」くらいにしか思わなかったが、
初めて彼をメディアで目撃した時に、
あの時の夢を彼は叶えているんだなぁと、えらく感動した。

まぁ、彼は私のことなど覚えていないだろうけど(笑)

(巫女さんのバイトのこと書けなかったなwまたの機会に(笑))


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