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【第34回】ゆるゆるM&Aセミナー:最終契約①株式譲渡契約・事業譲渡契約

日本一ゆるゆるなM&Aセミナーです。気楽に読んでください。

ついに交渉も終盤です。

最終契約について説明始めます。

■最終契約

最終契約(Difinitive Agreement:DAともいいます)とは、

条件が整ったら①株式・事業譲渡を実行することを法的に確約するための契約と、その契約を結ぶための②重要な前提条件となりうる契約群

のことを言います。

つまり、この契約を締結すると、条件が整ったら(=クロージング充足条件を充足したら)株式・事業譲渡を実行(=契約効力発生=クロージング)しなければいけないという法的義務が発生することになります。

意向表明のようなNon-binding(法的拘束力がない)契約ではなく、法的拘束力を有する契約であり、この契約にてM&Aの条件が最終確定するために最終契約と位置付けられています。

(最終契約締結後も様々な関連契約を締結していくこともありますので、時系列的な最終という意味ではありません)

①株式・事業譲渡を実行することを法的に確約するための契約

ストラクチャによって名称は変わります。

株式譲渡:株式譲渡契約
     (英語契約の場合は、Share Purchase Agreement:SPA)
事業譲渡:事業譲渡契約
     (英語契約の場合は、Business Transfer Agreement)
吸収分割:吸収分割契約
出資(第三者割当増資):株式引受契約
     (英語契約の場合は、Share Subscription Agreement)

いずれも、M&Aそのものの取引に関する契約です。内容は後述で詳しく説明します。

②重要な前提条件となりうる契約群

①のほかに重要な契約として、JVの場合に結ばれる株主間契約(英語の契約の場合はShareholders Agreement:SHA)関連契約があげられます。これらについては、次回以降3回にわたり説明します。

■事業譲渡契約の重要条項と注意点

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✔譲渡対象範囲

ここで何を買収するのか、いわゆる承継対象をしっかりと定義する必要があります。

株式譲渡であれば、「どの株式を何株だれからだれに譲渡する」・・・と比較的明確に規定できます。

一方で、事業譲渡や会社分割で事業をカーブアウトする場合、「〇〇事業」といっても、どこからどこまでがその事業なのか、部門は?従業員は?契約は?資産と負債は?他事業と共有している契約やリソースは?・・・と明確な定義ができていません。

定義が明確でないと契約後・クロージング後に買い手と売り手がもめる原因となりますので、疑義が発生しないように別紙などで譲渡対象が何を含むものか、細かくしっかりと定義します。弁護士のアドバイスをもとに整理しましょう。

また、譲渡範囲が決まったら、それをどのように譲渡するか、ストラクチャを定義することになりますので、こちらも弁護士と相談しながら整理します。

場合によっては、定義の仕方が買収後の会計処理(PPA等)・税務処理に影響を与える可能性もあるので、会計士や税理士のアドバイスも重要です。

✔譲渡価額

一般的には、交渉の末に、契約時点もしくは基準日(例えば直近の四半期末など)を前提とした譲渡対価を合意し定義します。

しかし、契約締結後~クロージングに至るまでに時間がかかるケースも多く、譲渡対価決定の前提条件が崩れる可能性があります。

そのため、基準日からクロージング日までの変化を対価に反映させる方法を規定することがあります。これをクロージング調整条項といいます。

一番簡単な方法は、基準日の純資産とクロージング時点の純資産の差額を清算するという方法が代表的です。

✔クロージング充足条件

最初に説明したように、最終契約を締結した後は、クロージング充足条件(Condition Precedent:CPともいう)が整ったら株式・事業譲渡を実行する義務が発生します。

そのため、買い手・売り手ともに、クロージングまでに整理しておかないといけないことをすべてクロージング充足条件にて定義しておく必要があります。

例えば、以下のような項目は規定が必要な場合が多いです。

✔売り手による義務(事前再編等)が完了していること
✔関連する諸契約の締結が完了していること
✔第三者との重要契約について承継の同意が得られていること
✔許認可の承継・新規取得が完了していること
✔法的手続きが完了していること(企業結合のクリアランス完了等)
✔事業に重要な変化が起こっていないこと(Material Adverse Change条項:MAC(マック)条項という )
✔対価が振り込まれていること

売り手としては、前提条件をクリアできずにクロージングができないというリスクを恐れるため、なるべくクロージング充足条件を減らそうとしますが、買い手側はここの規定漏れがあるとクロージング直後に問題が起きる・最悪は事業が停止する恐れがあるため、キチンと定義する必要があります。

✔クロージング後の売り手の義務

買収しても、その事業がきちんと運営できなければ意味がありません。そのために一定期間売り手からの協力をもらう必要がある場合も多々あります。

例えば、許認可や他社契約締結の協力、シェアードサービスなど

株式譲渡契約では大まかに定義しておき、別途の関連契約にてしっかりと協力の確保をしていくことが一般的です。

✔表明保証・補償条項

買い手はDDにてなるべくリスクを洗い出すよう調査を行いますが、もちろんすべてを洗い出せるわけではありません。

そのため、買い手は売り手に、

対象事業を継続運営していくために問題となる事項を把握していない

ことを表明してもらいます。これを表明保証条項(Representations and Warranties:レプワラともいう)といいます。例えば、

開示情報に嘘はない
契約・法令違反や訴訟などの紛争の恐れはない
第三者知財の抵触の恐れはない
簿外・偶発債務はない

のような項目を細かく規定していきます。もちろん売り手はなるべく表明保証はしたくないので、激しい交渉になります。

最終的には、それぞれの項目に例外事項を列挙し免責とする(例えば、「訴訟はない、ただし〇〇で開示した訴訟案件は除く」のように表明してもらう)ことで、免責事項以外のリスクが発生したときは売り手の責任の補償対象とすることで、買い手としてもリスクを許容範囲内に限定することができれば合意となります。

✔補償条項

表明保証内容が事実でなかった場合(表明保証に違反した場合)には、損害額を補償してもらうという補償条項(Imdemnification:インデムともいう)につながります。

売り手としては大きな損害賠償責任は負いたくないので補償条件をなるべく狭めてきます。主な補償条項の条件は、

補償請求額の上限:譲渡価額の〇〇%という決め方が多い
補償請求額の下限:たとえば1千万円以下の場合は請求しない、など
補償請求期間  :一般的には1会計期間(すなわち1年)

となります。

なお、重大な故意による違反や環境問題・特許ライセンスがらみなど長期的な補償期間が必須な項目のみ「特別補償」として金額・期間を増やす方法も取られます。

買い手は、このような表明保証と補償の仕組みによって、DDで確認しきれなかったリスク、もしくはDDで懸念されるものの売り手と対策につき合意できなかったリスクの影響を抑制します。

なお、表明保証と補償は、おなじ読み方(ほしょう)でも意味が違うので変換ミスにお気を付けください。

■まとめ

株式や事業譲渡のメイン契約となるので、しっかりとポイントを把握し、買い手は思わぬリスクを受けることにならないよう慎重にドラフトしましょう。

それでは、次回もお楽しみに☆

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