第15話 パニエ
「お疲れ様」
部屋に戻ると、ハルトがソファに身を投げ出して宙を仰ぎながら言った。
「お疲れさまでした」
ダンスの後も、皇族との談笑、この地に転生した貴族たちとの挨拶と会話、ミルファク・コーポレーション幹部との面談など、たくさんの人と会い、そのたびにワインを飲みまくったから、ふたりともヘロヘロ。
でも……
「ハルトさん、契約締結おめでとうございます」
「ん?ああ、ありがとう。でも、これはおれの成果じゃなくて、君と二人の成果だよ。メイも、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
やばい、バカハルトがイケメンハルトに見えてきた。酔ってるのかな……
「あの、とはいえ、本当に52億カルマも……大丈夫なんですか?」
ずっと、引っかかっていた。前回13億カルマに対し、4倍の出資額だ。
「ああ、ちょっと見え張り過ぎたかな?でもさ、不当に高い価格を払う気はないけど、やっぱり正当な価格で買収したいんだよね。これからもピトン社長には引き続き頑張ってもらわなきゃいけないんだし」
確かに。正当な価値ということであれば、不正が解決した以上52億カルマは正当な価値だ。でも……
「心配している?」
「はい。帰ったら社長に怒られないかと」
「ははは、まあ社長は怒るかもね」
ハルトは鼻で笑い飛ばした。
「でもさ、本当にそれだけの価値はある。しかも、当社とのシナジーを考えれば、もっともっと大きな価値を創出できる」
「大きな価値?」
「うん。これまで、こんなに見事な貴族文化を維持している転生先は見たことがない。これは絶対にマッチング効果絶大だよ」
そうね。確かに、私もこんな規模の貴族経験はしたことがない。
当社とのシナジーでもっとサービス内容が良くなる可能性は高そうだ。
それもこれも、ハルトの戦略だったのね。
雑談を続けていると、やがて、ハルトも疲れが出てきたのか、まどろんできた。
そろそろかしら?
「ねえ、ハルトさん、話は変わるんですけど、コルセットがきつくて……この紐、ほどいてもらえますか?」
「ん?うん、いいよ」
ハルトが背中のひもを引っ張ると、コルセットがほどけて床に落ちる。
私はハルトに背を向けながら、コルセットの抑圧から解放されて暴れる自分の両胸を両腕で抑え込む。
今の私、下のパニエしか着ていない。
ショーツほどではないけど、やっぱり少し恥ずかしいわね。
「ハルトさん、このパニエも外してもらえますか……」
そこでハルトはふと我に返ったようだ。
顔を思いっきり赤らめて……
「か、からかうなっていってるだろ。はやく着替えろ」
もう、相変わらず堅いんだから。
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