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第68話 ストレス

「で、結局マーケットアプローチとインカムアプローチ、どちらが良いんですか」
「正解はないから、両方を見比べながら判断していくことになるんだよね」
「なるほど……」

(ワインも日本酒、どちらがおいしいという正解がないから、両方飲める店に行く……みたいな感じね)

「じゃあ、次は、さっきのインカムアプローチでつかったDCF法、これの事業計画が未達だった場合のシミュレーションをしてみようか」
「そんなことができるんですか?」
「うん、事業計画の妥当性が怪しい部分にストレスをかけてみるんだよ」
「ストレス……」
「そう。例えば、売り上げの伸び率がこんなに高くない場合、コストダウンの進捗が悪かった場合、割引率が悪化した場合、みたいに、ワーストケースを考えてみるということだよ」

 山田は、先ほどの計算シートをコピーすると、事業計画の数値を修正していった。

「例えば……売り上げの伸び率、つまりCAGRが10%。これを5%としてみると……」

 売上が変わると、変動費や運転資本が自動的に変わっていき、利益もキャッシュフロー、そして企業価値の算定結果も自動で修正される。
 山田は先ほどのあっという間の作業で、すべて連動するようにモデルをくみ上げていた。

「元の事業計画では120億円だったのに、ストレスかけると50億円……ですね?」
「うーん、約半分か。やはり90億円にはなかなか届かないか」

 山田も困り顔だ。

「宮津精密の現金と有利子負債はほぼ同額だから、企業価値=株式価値と考えると……」

 山田はエクセルでの計算を続けた。
 X/(50+X)=10% → 9×X=50 → X=50/9=5.6億円

「マーケットアプローチでの企業価値60億円から逆算すると、ポストで10%とるためには5.6億円」
「インカムアプローチの場合は……10%で7.8億円ですね」
「そうなるね。やはり2~4億円分の追加価値を説明しないといけないことになるね」
「はい」
「四の五の言っていても始まらない。片岡本部長と腹を割って話そう」

 そうして、急遽のテレビ会議が始まった。

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