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【第35回】ゆるゆるM&Aセミナー:最終契約②株主間契約 Part.1

日本一ゆるゆるなM&Aセミナーです。気楽に読んでください。

今回は、最終契約のうち、株式・事業譲渡契約に次いで重要な契約である株主間契約について説明します。

重要な契約なので、今回と次回の2回に分けた長い説明になってしまいますが、まさにM&A業界だからこそのテクニカルな概念・用語も乱出してきて、M&Aプロセス後半の中で一番面白い内容になりますので、ゆるーく楽しんで読んでくださいねー!!

■株主間契約とは

JV(ジョイントベンチャー)を組む場合には、株主が複数にわたるので、株主間で協定を結ぶことが一般的です。

これを、株主間契約(Shareholders Agreement:SHAという)といいます。

もちろん、JVを組まずにいきなり100%買収する場合は株主間契約は必要ないです。

しかし、実際事業会社が買収を実施する場合は、いきなり100%買収とはせずに、(少なくとも最初の当面は)売り手にもマイノリティ株主として残ってもらう場合が多いです。例えば、

✔売り手からブランドやライセンスを受ける場合に、売り手としても資本が残っていないとライセンスを与えにくいという場合
✔買い手として、一定期間は売り手の関与・協力・引継ぎが必要と考える場合
✔売り手が「事業売却」というレピュテーションリスクを少しでも抑えたい場合

また、買い手が複数企業のコンソーシアムを組成して共同で投資・買収することもあります。

✔事業会社とファンドが、経営と資金の役割をそれぞれ補完する場合
✔複数の事業会社が効率化のために同じ企業を買収する場合
✔規模が大きすぎて1社では買収しきれないケース

また、マイノリティ出資の場合は当然既存株主がいるので必然的にJVとなります。

このように、実は事業会社のM&Aにおいては、買い手の場合も売り手の場合も、結果としてJVとなるケースが非常に多いのです。

■株主間契約を結ばなかったら・・・

では、株主間契約を結ばなかった場合はどうなるでしょうか。

特に株主間での協定がないということなので、基本的には会社法で認められる範囲の権利を主張しあうことになりますが、その場合はマジョリティ株主が圧倒的に有利になってしまいます。

なぜならば、株主総会の普通決議を単独でできてしまうので、取締役の指名も含め対象会社のほとんどのコントロールを独占できることになってしまいます。

そうなると、だれもマイノリティ株主として残ってくれませんので、ディールも成立しません。

そこで、マジョリティ・マイノリティ双方が会社法の規定を超えてそれぞれの権利を調整し、合意したうえで対象会社を複数株主で円滑に運営するために、株主間契約を協議し締結することが一般的になっています。

最終契約において株式・事業譲渡契約と同等に重要な契約と位置付けたのは、この株主間の権利調整がうまく整理できないと、対象会社の円滑な事業運営ができなくなり、最悪株主間の喧嘩を誰も仲裁できずに対象会社の経営意思決定がデッドロック(決議できずに宙ぶらりんとなり解決できない状態に陥ること)する危険性があるからです。

加えて、マイノリティ株主からすると、マジョリティ株主のいいなりになったまま文句も言えずEXITすることすらできず泣き寝入りするしかなくなる恐れもあります。

よって、株主間契約は、以下の二つの側面から構成されます。

① 対象会社の事業運営のルール規定
② マイノリティ株主の権利保護(最悪EXITルール規定)

■株主間契約の重要条項と注意点

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✔株主の役割

事業会社の出資理由は、純投資(対象企業自身の活動のみによる成長によるリターンに期待する投資)ではなく事業投資であり、株主として対象事業の成長に向け支援の役割を担う(その対価として配当や将来の譲渡益ではなく事業上の貢献を受けることも多い)ことが多く、契約でも原則を規定しておくことが重要です。

✔株主の権利

代表的な権利は、対象会社のコントロールに関することです。

すなわち、

・取締役の選任権

です。通常は、議決権比率(+特別な貢献度:例えば対象会社の重要な機能を提供している株主は優遇される等)をベースに、各株主の取締役選任人数を割り当てます。

したがって、通常はマジョリティ株主が過半数の役員を選任する権利を確保します。

役員数が偶数の場合は、デッドロックする場合がありますので要注意です。この点は後述します。

役員任命以外にも、例えば上記の「事業上の貢献」を受ける場合等あれば、ここで規定します。

✔重要事項決定方法

対象会社にかかわる意思決定は、通常の経営においては株主総会か取締役会で決定します。

取締役会では、取締役会の過半数の賛成で決議されるので、マジョリティ株主が指名した取締役が過半数を占めるのであれば、マイノリティ株主の声は届きません。

株主総会についても、普通決議は議決権の過半数で決められるので、同じくマイノリティ株主の声は届きません。

そのため、マイノリティ株主の立場を維持できるように、マイノリティ株主としても口を出したい決議事項については取締役全員合意必要とか事前に全株主同意必要などの特例ルールを定義します。

✔デッドロック

役員数が偶数の場合や、上記の特例ルールに抵触する場合は、その議案がデッドロックする場合があります。

そのため、デッドロックを解消する仕組み(デッドロック・レゾリューション)が必要です。

取締役会でデッドロックした場合は株主総会へ、株主総会でデッドロックした場合は株主の代表間でのハイレベル協議で・・・という形で、エスカレーション協議を行うことを規定することが一つの手段ですが、それでもデッドロックが解消しないことがあります。

その場合は、最終決定権(キャスティングボードといいます)を設定することが考えられます。この場合は、たいていマジョリティ側(が指名する代表者)がキャスティングボードを持つように設計されます。

ただし、それだと結局マイノリティ株主は最終的に意見が通らなくなります。そのときは泣き寝入りしなければいけないのでしょうか・・・

その場合に、マイノリティ株主が出資から撤退する権利を主張することで、デッドロックによるマイノリティ株主を保護する仕組みが考えられます。

一方で、マイノリティが拒否権を持つ決議事項の場合、マジョリティを持っているのにいつまでたっても決められないという場合もあり得ます。これもデッドロックの一つで、その意味ではマジョリティの経営推進を保護するためにマイノリティを排除するという仕組みも考えられます。


これらの考え方が、次回に説明するコールオプション・プットオプションに発展していきます。

面白くなってきましたね!つづきはまた次回!!お楽しみに☆

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