引き出しの中にあるもの
届かなかった思いってどうなってしまうのだろう。
笑い猫(細村 誠)さんの「引き出しにしまった話」を読んで、まず浮かんだのはそんな言葉でした。
ここから先はネタバレも含んでくるので、読んでない方はぜひ読んでからお付き合いいただけると嬉しいです(感想をネタバレなしで語るって本当に難しいし、なんだか味が薄くなりやすいので)。
これは主人公井波と、親友棗のお話。
静かな海の音がかすかに聞こえるような、ゆったりとした切なさが漂っている作品です。
親友の発した一言がずっと心の中で反響している。痛みで表すなら鈍痛、のような感じでしょうか。
向こうから便りは来るのに、どうしてか返事は届かない。
まるであの日、笑って冗談にしてしまったやり取りが繰り返されてるような感覚。
届かない手紙は溜まっていって、返事を書く事すら諦めたころに、とうとう宛先がなくなるというのが虚しい。
別に、ケンカをしたわけじゃないし、絶縁したわけでもない。むしろよく繋がっていたといえるのだけれど、相手の気持ちを受け止められなかったというのは、たぶん関係性が深いほど心残りになる。
一読者の解釈だけれど、親友の棗も何かずっと引っかかっていたんじゃないかと思う。
主人公の井波が田舎暮らしで家庭を持っていったように、彼は彼なりに人生を歩んでいた。けれど、両親の離婚や自分の家族観、そしてあの日のやり取りもあって、故郷へは戻りようがなかった気もする。
そう考えると、あの引き出しにしまった気持ちというのは主人公の思いだけじゃなくて、どこか彼の心境も表しているような、、、そんな感じがしてくる。
会って話をして、何気ない言葉でも交わせていたら何か違ったのかもしれないけど、案外簡単に思いつくことのほうが難しい。
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