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仕組預金(為替)の勝率を検証してみる

※この記事はエクセルのダウンロードを無料に変更しました。

仕組預金をご存知でしょうか。
仕組みが内包されている預金のことで、仕組みとはデリバティブのことを意味しています。
具体的にはステップアップ預金だったり、コーラブル預金、デュアル(為替リスク付き)預金と様々な種類があります。
いずれもデリバティブが内包されている預金であり、途中解約時には元本割れを起こしたり、償還時に元本割れを起こす可能性のあるものもあります。

このうち、ステップアップやコーラブルといったものは比較的年単位の定期預金形式の場合も多い一方で、デュアル預金は2週間ものといった短期間のものも存在しています。
デュアル預金は金融機関によってはコイントス、オセロといったように表と裏、つまり上がるか下がるかの2択という意味合いが強く、ギャンブルの丁か半と似た性質があります。

しかし、この為替リスクを内包しているデュアル預金は一見すると金利が高めに設定されており、年率4-5%のような表記を見かけることもあります。では果たしてその金利が付くのであればお得なのかどうか、シミュレーションしてみたいと思います。

■ 為替リスク付きのデュアル預金とは?

まずはこれから検証する対象がそもそも何なのか解説します。具体例で考えた方が分かりやすいため、よく見かける形式を例に取ってみます。

元本:100万円
預入通貨:円
預入期間:2週間
金利(年率):4.0%
参照通貨:米ドル
判定為替:スポット

元本から金利の箇所までは、金利が高いことを除けばよくある預金の形式です。
さて問題は参照通貨と判定為替です。
これは一体何なのかということです。

結論としては、2週間後の米ドル円のレートが現在のレートよりも高いか、低いかによって満期時に返ってくる元本は、預入した円元本全額なのか、円元本を判定為替で割った米ドルになるのか変わるということです。

もう一声詳しく条件を書き直すと下記のようになります。

元本:100万円
預入通貨:円
預入期間:2週間
金利(年率):4.0%
参照通貨:米ドル
判定為替:1米ドル=100円
償還金:
(1)満期時の米ドル円≧100円の時、100万円
(2)満期時の米ドル円<100円の時、1万米ドル

(2)は元本(100万円)÷判定為替(100米ドル/円)=1万米ドルという式から算出されています。

つまり満期時に、預金した日よりも為替レートが円安であれば元本は円で返ってきて、円高であれば元本は米ドルで返ってくるということです。

ではこれがなぜ元本割れを起こすのか?

1万米ドルで返ってきた場合、その時円に換算すると100万円を下回るからです。

例えば満期時に米ドル円のレートが98円だったとすると、1万米ドルで返ってくるので、円に換算すると10,000×98=98万円となり、2万円損していますよね。

95円だった場合は95万円となり5万円の損。
90円だった場合は90万円となり10万円の損。

損失に関して言えば、為替レートに対して直線的に損失が発生していることが分かります。

つまり元本部分についての損益を図示するとこちらのようになります。
横軸が米ドル円のレート、縦軸が損失(万円)です。

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しかし元本部分だけが特徴ではありません。
冒頭でサラッと流した金利も非常に特別な一面を持っており、この低金利環境下、円で年率4%は極めて高いレートです。この金利は丸々そのまま貰えますが、あくまで2週間分のみとなることに注意が必要です。

100万×4%×14/365=1,534円となります。

従って、この金利分は元本で損をしても全体の損益はトントンということになります。
元本及び金利を考慮した損益を図示してみるとこちらになります。
同様に、横軸が米ドル円のレート、縦軸が損失(万円)です。
先ほどよりもグラフ全体が若干上方に平行移動していると思いますが、それを強調するためにドル円100円近辺を拡大した図になります。

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結局この商品は何なのかと言えば、プットオプションの売却に他なりません。
事前に取り決めした為替レートよりも契約終了時の為替レートが低いと損をするというものです。損失は無限大ですが、実質的には期間が短期であるため損失が無限大になることは考える必要のないリスクとも言えます。1ヶ月後の為替レートが0になることは無いからです。
一方で、仮に円安にどれだけ動いたとしても元本は増えることはありません。

■ 目的

では今説明した商品、「結局お得なの?どうなの?」と気になると思います。
そこでまずは過去の為替レートにおいて、仕組預金はどれくらいの勝率だったのかを検証します。
次にその勝率を踏まえて、仕組預金とただのFXで同じ期間勝負したらどちらの方が有利だったかを検証します。

条件のおさらいです。

元本:100万円
預入通貨:円
預入期間:2週間
金利(年率):4.0%
参照通貨:米ドル
判定為替:1米ドル=100円
償還金:
(1)満期時の米ドル円≧100円の時、100万円
(2)満期時の米ドル円<100円の時、1万米ドル

■ 仕組預金の勝率

まず今回使うデータについては、2002年4月から過去20年分で、古い日付から最新の日付まで米ドル円のレートを表示し、C列において2週間収益率を計算します。つまり、4/1に米ドル円を133.15で購入した場合、2週間後には利益が出ているか確認したいからです。次にヒストグラムを作るための準備として、収益率がどの範囲に入っているのか分類します。下限はその数を含め、上限はその数を除外します。(以上、未満)

(※0以上を収益有りとみなします。)

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右の表は収益率の範囲を示しており、各範囲に該当する日数をH列に個数として計上し、I列に小さい方の範囲からの累計個数を計上しています。
計算は単純でその行の個数と直前の累計個数を足すだけです。

0未満だったケースは2279/4696*100%なので48.5%となり、0以上だったケースは51.5%程度となるため、本当に若干だけ勝てる確率が高いと言えます。しかしほぼ50%ですから、ほとんどコイントスと同じで優位性はないと言ってもいいでしょう。

グラフに表すと下記のようになります。
左軸は各範囲の個数、右軸は累計個数、横軸は範囲を示しています。
棒グラフは各範囲の個数で、0以上1%未満が最も個数が多いですが、その左の-1%以上0%未満とほとんど変わりません。
黒い曲線は累積個数を結んだものとなります。

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結論としてはほぼ五分五分の勝負と言えるでしょう。

■ 米ドル円の取引をした場合の収益

では仕組預金ではなく、単純に米ドルを購入し、2週間後に売却した場合の収益はどうなるのか考えてみます。
・・・実は仕組預金の勝敗を計算する際に、2週間収益率を出していたためそれをそのまま使うことが出来ます。

■ 比較

では仮に50%の確率で勝てたわけですが、仕組預金にしていた方が良かったのか、自ら米ドル円の為替取引を行った方が良かったのか考えてみましょう。

某銀行の6/22時点での仕組預金の金利は4%でした。
実際に14日間で得られる金利は4%*14/365ですから、約0.15%となります。

さて収益を比較したいので、100万円を円元本として下の表のように計算を行います。

①仕組預金の元本部分については、当初の為替よりも高ければ損益は発生しませんが、低ければその分損失が発生します。下記のように途中まではずっと損益が発生せず、途中から損失が見られます。

②次に仕組預金の金利部分については必ず金利4%を得られる(期間分でいうと0.15%)なので、100万円*0.15%で確定します。

③①と②を合計したものが仕組預金の損益になります。
仕組預金の勝率の項目でも書きましたように、金利分よりも元本で損をしてしまうと合計で損をしてしまうということになります。金利分が損をするまでのクッションということになります。

④為替取引の損益は単純に上記で既に求めた2週間損益率を元本にかけるだけです。

⑤③から④を引いた数字になります。

⑥⑤がプラスであれば仕組預金の方が収益が高く、マイナスであれば為替取引の方が収益が高いということになります。

結果は右端に判定した個数の合計を書きましたが、仕組預金の方が収益を残している回数が多かったということになります。

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以上の結果から、理論上過去においては仕組預金という形でプットオプションを売ってプレミアムを積む方が有利ということが分かりました。

しかしこんな計算をせずともこの結論は最初の検証で仕組預金の勝敗が五分五分であることが判明した時点で実は分かっていたことでした。

なぜなら、まず仕組預金で元本に損が出た場合、為替差損がそのまま損失になりますが、これは為替取引でも全く同じです。しかし仕組預金の場合はその損を少しだけ補填してくれる金利がありますので、仕組預金が五分五分の確率で負けるのであれば、その負けたときは為替取引をした場合よりはマシなわけです。(上記の表の黄色部分が全く同じです。)

つまり約50%の確率で仕組預金は為替取引よりは勝てるわけです。

一方、仕組預金において元本に損が出なかったときは、為替が当初よりも円安になったわけなので、為替取引では利益が出ているはずです。
しかし、仕組預金には金利が付くので、その金利以上に為替取引で利益が出ていなければ、仕組預金が依然として為替取引に勝つわけです。

結果、仕組預金は為替取引よりも50%+αで勝てるわけなのです。

■ 税金などのコストの話

忘れてはいけないのが税金の話です。
仕組み預金の利息に対しては現状20.315%、FXの利益については20%となっており、場合によっては確定申告も必要となります。

また為替取引をする場合、必ずオファービッドなるスプレッド、つまり両替コストが取られますので、それも加味する必要があります。

つまり上記の検証はあくまで理論上の比較になります。

最後に大事な話をします。

■ 金融機関側は儲かるのか?

投資家としての立場は理解できたけど、この商品を提供している金融機関側はなぜこの商品を販売するのか考えてみます。

結論、儲かるからです。

そもそも論として金融機関がコインの裏表のような博打を行うでしょうか?

投資家が勝ったら、銀行は負ける、、、そんなギャンブルはしません。まともな組織であれば収益を運任せにするはずがありません。このケースにおいては金融機関側は完全なリスクヘッジが可能です。
年率4%のプットオプションを個人投資家から買います(金融機関はオプションの買い手、個人投資家は売り手)。
これと同時に市場で全く同じプットオプションを年率5%で売ります(金融機関はオプションの売り手)。

オプションを5%で売って、4%で買ってくる、つまり個人投資家から安く仕入れて、市場で高く売るということになります。

なぜこんなことが可能なのかといえば、まず為替のオプションは極めて流動性が高いため、市場で簡単に売買が可能です。市場で取引されるオプションは平時においては基本的に最もフェアな値段で取引が行われています。

例えばスーパーに売ってる1本100円のバナナって、農家から買うときは少なくとも100円より安い値段のはずですよね。例えば80円。スーパーでバナナが売れれば利益は20円です。(輸送費等のコストは無視)

これと全く同様のことが行われており、市場でフェアな値段で売れるので、それより安い値段で個人投資家から買っておこうという話です。

あくまで理論上の推測の域ですが、金融機関側は確実に儲かると思います。基本的に金融機関は何らかの取引が発生した場合、そのリスクを放置しません。合理的なリスクヘッジを行う必要があり、この仕組預金においては超単純なプットオプションの売買であり、確実にサヤを抜ける前提での金利を商品として設定すれば良いだけです。

しかしそれでも超低金利環境下であるため、個人投資家からしたら見栄えが良く感じるのは無理ありません。

別に金融機関が悪だくみをして投資家を騙しているわけではありません。金融機関も儲けなければその社員は生活が出来ませんので、このように儲かる商品を常に模索しているのです。つまりビジネスとして当たり前のことです。

■ まとめ

あくまで私個人の皮算用ですが、仕組預金はコイントスと呼ばれるのは最もで、五分五分の確率で勝負が決まることが分かりました。また為替取引よりも有利だと分かりましたが、あくまで過去のデータであり、金利も市場動向によって変動するため、所詮は頭の体操の1つとご理解頂ければと思います。

さて、1つ宿題が残っています。
それは仕組預金の4%という金利は妥当なのか?ということです。
しかし既に5000字を超えていますので、この検証はまた別の記事で書きたいと思います。

ここで用いたエクセルも置いておきます。
無料でダウンロード可能です。

<重要事項>
※個人の見解に基づくものであり、noteやexcel fileの内容についての完全性、真正性を保証するものではありません。また投資の勧誘などを目的としたものではなく、noteやexcel fileの内容によって被った損害等、一切責任を負いません。また、所属企業との関係は一切ございません。あくまで個人の遊びの皮算用であることをご理解ください。


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