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2011年 小学生部門 最優秀賞『忘られぬ死』

受賞者
夏羽さん(小6・宮崎県)

読んだ本
『忘られぬ死』
アガサ・クリスティー著、中村能三訳、早川書房

作品
〜Sparkling Cyanide〜

                          夏羽

「アガサ・クリスティー」この名前を聞いて、ほとんどの人は名探偵ポアロやミス・マープルを想像するだろう。ポアロはユニークかつ聡明な人物である。彼はイスに座りご自慢の灰色の脳細胞を働かせ実に鮮やかに事件の謎を解いていくのである。これぞ探偵小説!!なのである。しかしこのあまりにも有名なアガサの作品の中に「ノン・シリーズ」というのがあるのをご存知だろうか。これは、全くの素人があらゆることに興味を持ち事件の謎を解いていくという物だ。もちろんポアロやマープルといった一流の名探偵は出てこない。しかしこの素人探偵がでてくるシリーズにはポアロ達には決してない独特の良さがある。それはイスに座りじっと考え謎を解いていくポアロ達とは対照的に「ノン・シリーズ」にでてくる若者は考えずに直感で行動しそれらを解決していく。それは実に心地が良くそう快である。その「ノン・シリーズ」の中でも私は「忘られぬ死」という作品が今は一番のお気に入りである。

 この作品は、美女ローズマリーが自分の誕生パーティで自ら毒を飲んでこの世を去ってしまう。その一年後に彼女を思い出し回想する六人の男女の間で再び事件が起こるという話である。私はこの作品の中に出てくるローズマリーという女性が、特別好きだ。完ぺきな美人である。彼女の生活はだれが見ても豪華絢爛・豪遊三昧なのだ。しかし、実際の彼女はちがう。表面では見せない弱さがある。自信に満ちあふれているようで実際はこれで良いのかと思い悩み、人に頼らずにはいられない人間なのだ。アガサの描く人物には“リアリティー”がある。誰しも人の心に潜む闇、言いかえれば人間らしさを小説の中の人物に置きかえて実に巧みに表現し、共感させる。容易にできることではない。しかし彼女はそれをいともたやすく自然に文章の中に組みこんでいく。ある人物の書評に「アガサは上手すぎる故に気づかれないのだ」とあったがその通りだと思う。

 この本の中では人間関係がとても複雑だ。しかしこの込み入った関係が実におもしろいのだ。読み進めていく度にその絡まった糸が一つ一つほどけていくのが私にはたまらない快感なのである。また次第にその中の世界に引きずりこまれ、失礼ではあるがあたかも自分がローズマリーであるかのように思えてくる。

 愛にはいろいろな形がある…どれもまちがいではないのだろう。

 この小説の結末は私にとっても「忘られぬ」ものとなるのだ。

 ローズマリーという人間がいかに多くの人の記憶に残る人物であったか、彼女という人間がいかに大切であったか、彼女にかくされた裏の真実の部分を彼女の死後、皆が理解することとなるのである。

 私にはクリスティーがこの本を何故「忘られぬ死」とつけたか分かる気がする。文の結末、

「彼女はもうここにはいないね。」

この何気ない一言は実はとても深く重いのだ。どれだけ大切であったか分からない彼女の死を受け入れ、その思いに区切りをつけるのだ。この一言に尽きるのだ。

 最高潮の盛り上がりを見せていたところから一気に最後、静寂がおとずれる。しかしこの動・静の描写が実にうまくこの本の最大の魅力である。心の底から熱いものが込み上げてくる。

「アガサ・クリスティー」…彼女はそうミステリーの女王なのである。トリックはもちろんのこと心理描写、人の心の変化を描く天才だ。彼女の作品はなるほど、そうだったのかと思えるところがよくある。しかしそれが彼女のうまさでありごく自然にその世界に引きこまれていき、その巧みなトリックに気がつけないのだ。

 この作品の好所は私自身どっぷりした恋愛小説が苦手なのだがこれはある意味恋愛小説でありながらとてもさわやかで心地がよいのである。クリスティーの作品の中に恋愛ものの小説があることを知った。まだ読んではいないが、この「忘られぬ死」を感じそれがどんなに素晴らしい作品であるか想像にかたくない。ぜひ読んでおきたい一冊だ。「春にして君を離れ」…またちがったアガサ・クリスティーに出会えるのを期待している。

受賞のことば
言葉にならないくらいおどろきました。まさか自分が選ばれるなんて。。。
明日目がさめてもこれが本当でありますように!
アガサの本を一年以内に全部よみたい!!!作家にもなりたい!
まんがも本も大好きですが、自分で全部想像できるのが本の魅力です。
海外の本は訳する人でおもしろいか、おもしろくないかがきまります。
早川書房のアガサの本は読みやすくて訳も書評も楽しいです。
来年もあるならぜひチャレンジしたいです。いい体験になりました。

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