2011年 中高生部門 優秀賞
受賞者
萩原かのんさん(中3・埼玉県)
読んだ本
『時間のない国で』(上・下)
ケイト・トンプソン著、渡辺庸子訳、東京創元社
作品
「時間のない国で」ケイト・トンプソン
萩原かのん
神話とか神とか・・・この世に見えない物って信じろと言われて信じることができる?まれに霊が見える人がいたりするけど・・・普通の人は信じることはできないよね。私はこの世界にない物も信じることができる。なぜかって?それはね、こんな物語があって、少し自分も体験したからなんだ。この本はね、イギリスの作者さんが書いてるんだ。イギリスって、けっこう妖精とか精霊とかっていう存在を認めてるんだよね。だから魔法とかっていう発想が出来るんだろうね。そんな作者が書いた本は、現在の忙しい世界を抜け出して神話の中の世界「永遠なる若さの国」へ行くんだ。そこには妖精がいて、話すヤギがいて・・・もう、説明するのが面倒だから、実際に行った人に聞いてみよう。
「やあ、リディ。」「やあ。」どうやって向こうの世界に行ったの?「地下の壁を通り抜けたんだよ。」へえ、あの駅の壁を通り抜けた少年みたいにだね。で、その世界って、どんな世界だった。「とにかくだだっ広くて、住民はみんな若いんだ。おじいちゃんも若くて、初めは驚いた。」おじいちゃんも妖精なの?「そうらしい。ついでに言うと、僕たちはトロリン族だって。」トロリン?なんかスライムみたいな名前だね。「それと、向こうの世界では靴下は両足違う種類をはいているんだ。」なんで?「現在の生活でさ、靴下が片方しかないことって、ない?」うん、ある。捨てたわけでもないし、なかなか見つからないよね。「それは妖精の仕業なんだ。」もしかして片方ずつの靴下って。「たぶんだれかの片方の靴下さ。」へえ、なるほどね。「あと、太陽が永久に沈まない。若さを保つことができるんだって。」へぇ。じゃあ、のんびりと住めるんだ。「それから、音楽にあふれてたよ。毎日のように楽器を弾いているんだ。」私も楽器を弾くのは好きだし、音楽はもっと好きだよ。「僕はフィドルを弾くんだ。おじいちゃんも同じ楽器なんだ。」私もバイオリンを弾くよ。こんど、その永遠の若さの国に行って、一緒に演奏したいな。「今度ね。」その国では妖精以外にも誰か住んでいるの?「うん。話しかけてくるヤギとか、小人とか、人魚とか、見てはいないけど、もっとたくさんいると思う。」その国にいける条件ってあるの?「まあ、異世界の存在を信じることじゃないかな。あとは、異世界のとびらがありそうな歴史的建物を見に行くとか。」なるほど。「あ、それと、なんか楽器を弾いてて、どこからかメロディーが湧き出てきたり、聞こえて来たことはないかい。」考えてみればあるかも・・・。「それって向こうの世界の音らしいよ。」へえ、音楽って不思議な力があるんだね。「うん。これからも伝統的な音楽や、クラシックや、いろんな音楽が人々に愛され続けるといいな。」そうだね。今日ありがとう。「こちらこそ」、そう言ってリディは手を振って立ち去った。と、振り返って「お母さんの誕生日に時間を贈ったんだ。毎日忙しくて、時間が足りないって嘆いていたからね。昔、失踪した、ひいおじいちゃんにも会えたよ。妖精の国に行ったおかげでね。」
受賞のことば
優秀賞を頂きありがとうございます。日頃は自分の考えや意見を中心に文章を読んでいますが、今回、主人公と対話するという物語に入り込んだ読み方をすることで、自分と主人公との間に、主人公と対話する自分、という新しい視点を持つことが出来ました。主人公に成り切る楽しさや、対話する自分を客観的にイメージする難しさを知る一方で、想像を膨らませていううちにどんどん物語に吸い込まれていくような不思議な感覚を得ることが出来、楽しかったです。
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