2020年 中高生部門(中学生の部)最優秀賞『アクロイド殺人事件』『アガサ・クリスティー自伝』
受賞者
伊井 悠馬さん 中2
読んだ本
『アクロイド殺人事件』 アガサ・クリスティ作 茅野美ど里訳 偕成社
『アガサ・クリスティー自伝』 アガサ・クリスティー作 乾信一郎訳 早川書房
作品
(注:文中に本の結末がふくまれています。まだ結末を知りたくない方は、ぜひ本を読んでから作文をお読みください。――読書探偵作文コンクール事務局)
アクロイド裁判
裁判長「検察官。それでは被告人の罪を述べて下さい。」
検察官「裁判長。被告人アガサ・クリスティー女史は「アクロイド殺人事件」と題する小説において、語り手である医師が犯人であるという設定で、最後まで読者を欺いたものであります。このような推理小説の書き方は邪道であり、あってはならないものです。」
弁護人「裁判長。語り手を犯人にしてはいけないという法律は、私が知る限り、存在しません。法律違反でなければ、語り手が犯人でも問題にはなりません。」
検察官「一九二八年に米国の作家ヴァン・ダインが発表した「二十の禁止原則」というものが存在し、その一つに『作中の人物が仕掛けるトリック以外で、読者を欺いてはいけない』と書いてあります。」
弁護人「ヴァン・ダイン氏がどれほど優れた推理小説作家かは知りませんが、世界的に認知されていないルールには必ずしも従う必要はないと思われます。犯人には双子の兄弟がいたというたぐいの余りにも見え透いた設定こそ破棄すべきものです。」
ここで本裁判の被告人アガサクリスティー女史が召喚される。
検察官「クリスティーさん。『アクロイド殺人事件』の成功、おめでとうございます。色々な意味で随分と評判になっているようで、あなたもこの作品で一流の推理作家の仲間入りをしたようです。ところで語り手=犯人というトリックが世間の常識を逸脱しているという意見があるのですがどう思われますか。」
クリスティー「義兄のジェームズが探偵小説のことを少々不平そうに『自分が見たいのはワトソン役が犯人になること』と言っていました。また、チャールズ皇太子の親戚にあたるマウントバッテン卿も殺人犯が一人称で語ることを手紙に書いていました。いい思い付きだと考えた私は、長い間この二人の考えを練っていました。それにはもちろんたいそう困難があるのですが。私は読者と知恵比べをしようとは思っていません。むしろ種々の可能性がある中から、自分自身でもはっとするような状況に思い至った時が最も幸福な瞬間です。」
検察官「推理小説の前提には読者と作者が平等の機会を与えられているという暗黙の了解があるのですがその点はどうですか。」
クリスティー「私にとっては設定ミスがないか、物語の流れや状況設定に無理はないかが重要となります。『アクロイド殺人事件』では、たまたま語り手が犯人として名乗りを上げますが、これは物語の流れからいって、これしかないということです。読者はポワロと一緒に事件を解く材料に出会います。犯人候補が多く登場するのは、私の他の小説でも良くあることで、私自身の物語展開への苦悩も表しています。また、私はさらりとした恋愛を描くのも意図しているのですが、それについてはどなたも評価して下さらないようです。」
ここで、クリスティー女史が退廷。
裁判長「陪審員の皆さん、評決は出ましたでしょうか。」
陪審員代表「はい、裁判長。推理小説は読者と作者の知恵比べでもあり、この意味で『アクロイド殺人事件』は、作者のいつもながらの読書の推理を裏切るトリックがあり、これは作者の勝利であります。この小説にはこれ以外にも魅力があります。謎を一つ一つ解いていく推理過程は女史の得意とするところですが、まずは殺人事件というシリアスな物語vs引退してかぼちゃ作りにいそしむとぼけた探偵というアンマッチが程よく進行しています。次に作者の情け容赦ないユーモア、つまり犯人の義妹キャロラインは兄が能なし・お人よしと信じきっているが、実はその彼が自分の悪事の露見を隠すために、理詰めで殺人を犯した張本人なのです。もちろんフロラとラルフの爽やかだが一途な恋愛は素晴らしい出来栄えになっています。」 以上
受賞のことば
僕が、このコンクールに提出した理由は正直な話を言うと自分のお小遣いから出したくない漫画雑誌を買うためでした。もちろん、その時も最優秀賞どころか優秀賞なんかも夢のまた夢でした。ですが、応募した所最優秀賞を審査員の方から頂くことができました。僕は、今回漫画という一つの目標を持ってなにかに一生懸命になるというきっかけを持ちました。これからも、様々な目標を作ることから始めて何かを掴むことができるように頑張ります!
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※応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局
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