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2017年 中高生部門 最優秀賞『ロミオとジュリエット』

受賞者
日笠山るりかさん 高1

読んだ本
『ロミオとジュリエット』
シェイクスピア作 中村好夫訳 新潮社

作品
 シェイクスピアの四大悲劇の中の一つと言われる「ロミオとジュリエット」。私がこの本に興味をもった理由は、独特な言い回しや場面の描写、心中という儚く美しい恋の終焉、そして桃色の地に赤い文字、可憐な表紙に惹かれたからである。また今年の春に私が所属している合唱部で、宝塚版の「ロミオとジュリエット」のミュージカルを行い、簡単にしか読んだことがない原作に、興味が湧いたからである。
 私はこの本を読んで予想外だった点が二つある。
 一つ目は単純で簡単な恋愛話だと思っていたが、実際はその裏で、多くの人々の感情や思想が複雑に絡み合っていたことだ。例えば、ロレンス神父は二人の恋の手助けをして両家の和解を試み、キャピュレットは跡継ぎ問題からパリスと娘の結婚を強制するなど、登場人物たちの気持ちや事情がこんがらがって、悲劇の結末を迎えていたことに驚いた。また様々な立場や世代が違う人々を、こんなにも人間味溢れるように書けるのかと感嘆した。
 二つ目はロミオとジュリエットが恋をして、周りが見えなくなったことにより、他人の心を深く傷つけていたことである。
 私がそう感じた場面は多々あるが、中でも印象に残った場面は二つある。
 一つ目はジュリエットが、毒薬を飲んで仮死する場面である。ジュリエットはロレンス神父に言われたとおり、パリスと結婚すると嘘をつき、その日の夜に毒薬を飲んで仮死状態になる。翌日、家族は結婚式の準備で張り切っていたが、ジュリエットは死んだようになっている。人々は嘆き悲しみ、ロレンス神父のいる教会へ向かう。周囲の人々の、喜びと悲しみが生んだ感情の温度差は、私の心を強く締め付けた。私が盲目になるような恋をしたことがないから、このようなことを言えるのかもしれないが、自分のことを大切に思ってくれている人に嘘をつき、悲しみのどん底に突き落とすというのは、本当に残酷なことである。乳母が仮死しているジュリエットの部屋に入る場面は、「くるか、くるか!」とハラハラした。もし私がその場にいることができたら、「あーー行くなーーーー!」と乳母を止めることができるのに、と悔しい思いでいっぱいだった。
 二つ目はロミオが毒薬を、貧しい薬屋から買う場面である。なんとロミオは、人の命を奪う薬を売ると死刑になってしまう、と言う老人に対し、「見れば、それほどの貧苦にさいなまれていて、貴様まだ死ぬのが怖いのか!(中略)世間も世間の法律も貴様の味方ではない。」と言っているのだ。このロミオを見て失望したが、最愛の人が亡くなった時に周りが見えなくなるのは当然なのかもしれない。だがやはり、自分に近い家族が亡くなったことがないため、このような感覚がいまいち理解できなかった。
 私がこの本の中で面白いと感じた台詞が二つある。どちらも仮面舞踏会後の、ロミオとジュリエットの会話である。
「かなう願いなら、いっそあの手を包む手袋になってみたい。」
 これはロミオがバルコニーの下で、物思いに耽るジュリエットを眺めながら呟いた台詞である。この台詞を読んで私はジャニオタ(ジャニーズオタクの略)の友人を思い出した。私の友人は「〇〇くんのマイクになりたい。」といっていたが、この台詞を読んで、今も昔も人は変わらないのだと感じた。他にもジュリエットがロミオとの別れを惜しむとき、鳥籠にロミオを閉じ込めることができたら「可愛がりすぎて殺してしまうかもしれない。」という台詞がある。これは現代のマンガによく出てくるヤンデレ(病みとデレを掛け合わせた言葉)のキャラクターのようだと、思わず笑ってしまった。
 私はこの物語を読み終えて、また大人になったらロミオとジュリエットを読み返すことを決めた。なぜなら、大人になったら別の観点から、物語を楽しめると知ったからだ。以前、私の八十八歳の祖父に、ロミオは薬屋に酷いことを言ったのだと話したら、何故薬屋は死を恐れたのか、生とはなにか、死とは何か、愛とは何かを考えてみたらどうだと言われた。突然壮大なテーマを突きつけられて、頭がパンクしそうになったが、名作というのは色々な観点から楽しめるのだと、身をもって理解することができた。
 また、いつか恋をしてみたいと思った。二人とも周りに大変な迷惑をかけているが、純粋に誰かを愛する心は純白で綺麗だ。そのときは、ロレンス神父様の助言を参考にしたい。ロレンス神父の助言はいつも的を得ていて、何故恋愛のスペシャリストみたいなことがいえるのか、怪しい。
 そして、小説を書くことに興味が湧いた。芥川龍之介の「羅生門」の続きを考える夏休みの宿題が大変楽しかったのも理由の一つだ。しかし私は難しい言葉を知らず、美しい言葉の言い回しも見つからなかったので、これからは沢山本を読んで、「ロミオとジュリエット」のように人々が自然に動きだし、美しい言葉で溢れた物語を書きたい。

受賞のことば
 私の思い入れのある「ロミオとジュリエット」の作文で、賞を取ることができて大変嬉しいです。私はこのお話の中で、愛し合い儚く散っていく心中のシーンが一番好きです。このコンクールに応募することで、作品への思いをより深めることができました。これからもたくさんの本を読んで、自分の思いを文章に綴っていきたいと思います。

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※応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局

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