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2021年 小学生部門 最優秀賞『木を植えた男』

受賞者
波多 美理愛さん(小5)

読んだ本
『木を植えた男』 ジャン・ジオノ作 寺岡襄訳 あすなろ書房

作品
「心の世界―『木を植えた男』を読んで」

 不毛の地に木を植え続ける。ブフィエの信念だった。私は、このもくもくと、とほうもないことをやり続けながらも、たんたんとしているブフィエのすがたにひかれてしまう。何もできないと悲しむより、何かできることを実行していく、やりぬくしかない、そんな思いにさせられる。
 一人息子をなくしたブフィエは何か世の中の役に立つことがしたいと思い、来る日も来る日も一人で木を植え続けた。第一次世界大戦の時も、第二次世界大戦の時も変わらずに。でもたった一人でどんぐりを植え付けたとしても、見わたす限りのこう野が一体どうなるというのか、私は思わず本に問いかけてしまった。ブフィエは家族を失って、こ独の世界に入ったと思う。もしかしたらその土地は、ブフィエの心の世界だったのかもしれない。あれた心の地に命の種を植えようとしていたのかもしれない。何万本もの木を植えたいという願いの中には、ブフィエの意思だけではなく、そうしなければいられなかった思いもあったのではないだろうか。
 ブフィエは戦争中も木を植え続けた。一人のこ独な老人がせっせと続けた行いが、世界を変えていく。長い年月が過ぎこう野は木でいっぱいの豊かな土地になり、そこでくらす人はみんな幸せになった。一人ができることは限られているかもしれない。でも強い心を持ち続け、こつこつと最後までやり通せば、大きなことができると私の心は勇気づけられた。神のみわざのような行いは、あきっぽい私には想像もつかなかった。私は自分の思いにちゅう実に、そしてそれをやり通すなんてことは全然できない。勉強もピアノも体そうも、自ら進んでやることができない時もある。けれど、この本を読んで考え方が変わった。小さなことを積み上げていけば、いつかは大きなものとなる。ブフィエが不毛の地を木々でいっぱいにすることを思いついたように、私も何かに一生けん命取り組みたい。人の行動は、人の心が作り上げるのだと気づいた。
 ブフィエはいつも一人でこ独に見えた。でも本当にそうだったのだろうか。こ独な心は、だれもがどこかで持っている感情だ。こ独には色々ある。人の中にいてもこ独を感じる時がある。悲しみの中のこ独もある。一人でいるこ独よりも、もっとつらいこ独もある。ブフィエは一人だったが、自分のやっていることに確信を持つことで、むしろこ独ではなかったのだと思う。だから私はこの本を読んでいても、不思議なくらい悲しみを感じることがなく、逆に力強さを感じることができたのだ。
 逆境の中でも立ち向かっていく強い心は、試行さくごのくり返しの中で身に付いていった。失敗してもあきらめずに乗りこえていく力の大きさを知り、私はしばらくこの本からはなれることができなかった。

受賞のことば
 昨年の優秀賞に続き、今年は最優秀賞をいただき、おどろきと喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。この本をきっかけに、こ独ということやもくもくと一つのことを続ける意味について考え、今の自分と向き合うことができました。私は本を読んだり映画のDVDを観たりすることが何よりも大好きです。これからも外国の物語もたくさん読んで、色々なまなざしに出会いたいです。大人になって11才の私をふり返った時、最優秀賞をいただいたことがすてきな思い出として残っているはずです。

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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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