悲しみを持ち寄った温かで静かな夜
師走の夜、とあるイベントにお邪魔した。
参加者十数人の小さなイベントだった。
参加者の多くは深い悲しみに暮れていた。
ある日とつぜん起きた出来事によって人生は一変した。
それ以来消えることのない悲しみから逃れられなかった。
誰もが自分の悲しみは、誰にも話せないと思っていた。
それぞれの悲しみはそれぞれにしか分からない。
もう自分でさえ自分の悲しみがわからなくなる。
その悲しみが他人に分かってもらえてるとは思えない。
だから、たとえ同じような身の上であっても話せない。
でも、ここに来たらもしかしたら何かあるかもしれない。
一縷の望み、、、そんなものもなくしていた。
それでも、もしかしたら・・・
主催者以外誰もはなさなかった。
そんななか、ひとりの参加者が話し始めた。
誰にも話したことがない。
誰にも話したくない、と始めに言った。
でも話し始めた。
静かである。
崩れ落ちそうなか細い声だけが小さく響いていた。
ボクのようなその悲しみを持たない参加者もただ頷き聴いていた。
どれだけ頷いて聴いても悲しみが薄れることはないと知っていた。
それでももし話してくれるなら、側で聴いているよ、と伝えたかった。
何もいえない、言えるわけがない。
でも最初の声に呼応するように別のひとりが話し始めた。
長い間、悲しみを我慢してきたのだと思う。
話すことができない次々に湧き出る感情を貯めた。
そうして何年も、何十年も耐えてきた堰が崩れあふれた。
一人、またひとりと話した。
話していいんだと感じた。
誰もがただ頷いていて聴いていた。
もう涙を我慢することもなかった。
悲しみを抱えた人も、悲しみを受けとめようとした人も
そこにいたすべての人にすべてのことが受け入れられていた。
受け入れられる、という言葉で確認する必要はなかった。
言葉にしなくても誰もがそれを感じていた。
温かな靜寂の時は終わった。
余韻が漂い、帰ることができなかった。
そうだね、帰れないよね。
空気を惜しむようだった。
この時間を慈しむようだった。
居場所?・・・そんな言葉が浮かんだ。
やがて扉はしめられ、誰もいなくなった。
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