知らず知らず他者を傷つけているかもしれない「無知」は罪か?

少しまえのこと。
とある精神科医が新型コロナのワクチンの接種を多数にむけて勧めていた。
勧める目的は解るが、その目的のために勧めていいのか?と疑問を抑えつつ聞いていた。
すると精神科医は「アナフィラキシーになっても現場には備えがあるから大丈夫」とまで言うのを聞き、怒りが止まらなかった。
こいつは、聞いている人のなかにアナフィラキシーで死にかけ、苦しんだ人がいる可能性があることの想像力の欠片もないのか!?
しかもここは、あらゆる可能性を考えて共感することを目的にした集まりじゃないのか?

このことを友人と話していた。(自分の怒りを聴いてもらいたかったこともある)
友人は、「無神経や無知は知らずに人の気持ちを踏みにじっているかもしれない」と言った。
こういう素直で鋭い感性は好きだ。そして怒りを解ってもらえたことにホッとする。
そうだよね、と思うと同時に寄せ場運動に関わっていた頃のことを思い出した。

寄せ場(ホームレス)差別に向き合う運動には、元全共闘や派生したセクトやノンセクトの連中も流れ着いていた。
そうしたシン・サヨクの人々はワタシのような素人にも厳しかった。
サヨクは「無知は罪だ」と言い、ワタシは責められた。
無知や無理解が差別をつくりだすのだ、と。
悔しかったが、目の前に広がる世界をみると正しいと思った。
ワタシはありとあらゆる差別の根因を知ろうと思った。
そうした意味では「寄せ場」はそうした場所だった。
文字通り、あらゆる被差別の寄せ場だった。

なんとか知ろうとおもった。そして理解しようと考えた。
アイヌ、ウチナンチュウ、被差別部落、在日、外国人、貧困、精神障害(発達障害)、身体障害etcetc
女性差別は少なかったが、LGBTはあった、、、日雇いという職業そのものもやはり差別の対象だった。
その先のホームレスまでゆけば言うまでもない。
あらゆる勉強をしようと本を読み、沖縄や被差別部落、在日の友人と話し合った。
友人たちは強かった。差別されたがゆえの強さを感じた。
でも、多くの被差別の人々は人にいえず苦しさを抱えていることを知った。
また、アンコ(日雇い労働者)から話をきき、青カン(ホームレス)と語り合った。
差別ゆえにアンコになり、そして青カンにならざる得なくなり、身なりや様相から再び差別された。
世間に合わせて、のほほんと生きてきてワタシの根底にある未知の差別心が顔をだすこともあった。
それでも、感度はかなりよくなり差別的な態度は減っていった。
同時にサヨクっぽくなり、他者にも厳しくなってきた。
無知は罪だと、言い放った。

時はたち、歳をとるにつけ興味の中心が「生きることそのもの」に移ってきた。
社会の制度による差別も白い目でみるくらいになり、何も言わなくなった。
無知が罪だとも思わなくなった。
誰も全てを知ることはできない。
たとえ知っていたとしても、そのことだけ、たとえば「ホームレス」という括りだけで語ることはできない。
一人ひとり違っていて、その一人でさえも時の流れで状況も心境は変わっていく。
すべては移ろいゆく。
むしろ大切なのは、「無知」であることの自覚である、と考えだした。
「無知の知」ソクラテスである。
自分は実は解ってないんだという自覚で、自分のなかのサヨクとは決別し、他者に求めることはなくなっていった。

実際に最近ワタシは「自死遺族」への無知のせいで、他者を傷つけることがあったかもしれない。
寄せ場運動のころ、あれだけ勉強して、実践してきたの「自死遺族」を知らなかった。でも、、
無知は自覚していた。
無知ならそこから始まるんだ。
大切なのは傷つけたことの自覚と対処だとかんがえた。
無知は罪というなら、罪を認めて謝ればいい。
傷つけたかもしれない自死遺族の彼女とは、謝罪を用意し傷つけたことを確認し、そして友人になった。
友人になれたから、苦しみの深いところを聴くことができた。
いつか会うかもしれない別の「自死遺族」の人に気づくことも、言葉にしない苦悩にも少しは近づけるかもしれない。

今回、「無神経や無知は知らずに人の気持ちを踏みにじっているかもしれない」と言った友人には、「無知が罪」ではなくて「傷つけたことに気づくこととその対処が大切だと思う」とだけ返事をした。
自分自身の確認のために「行間」を書いてみたくなった。
ワタシや友人たちは、敢えて「無知が人を傷つける」可能性が高いところに立っている。
既に傷ついた人が、ワタシによってさらに傷つく可能性のある場所に立っている。
どれだけ知識を得ても、どれだけ感覚を鋭くしても、やはり「人を傷つける」ときはある。
と、そのことの自覚とその対処が必要であることを人一倍意識し、体得することが必要だと思う。

このことに気付かせてくれた友人に感謝を込めて・・・


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