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コーヒーブレイク24回目:国家公務員(キャリア官僚)のお仕事Part11(法律措置、予算措置、経産省の紹介)

22回目の続きになります。

問題

第二次岸田政権のどのような政策が、大きな政府の経済政策(=財政拡張政策、統制経済)に当たるでしょうか?

答え

いくつかありますが、1つ目は半導体支援です。

1.半導体支援

まずは、日経新聞の記事を引用します。

検証 骨抜きの改革(3)半導体支援、経産VS.財務
「伝統の一戦」は延長戦 2024年7月5日

伝統の一戦は決着がつかず、延長戦に持ち越しとなった。半導体を巡り国の支援はどこまで踏み込むべきかという、長年のライバル官庁、経済産業省と財務省の政策論争である。

(中略)

ラピダスは米IBMから技術供与を受け、2027年に最先端の2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の国内量産を目指す。経産省は構想段階から関与する。

量産には5兆円が要るとされる。同社に民間からの融資はなく、出資はトヨタ自動車やソフトバンクなど8社からの73億円にとどまる。

そこで経産省が考えたのが新法を作り、民間金融機関などからの融資に「政府保証」をつける方策だ。金融機関も貸し倒れリスクが減り、融資しやすくなるとみる。

5月に開いた同省の「半導体・デジタル産業戦略検討会議」で初めて、報道陣向けにラピダス支援への「政府保証案」の存在を明かした

ラピダスにはすでに最大9200億円の補助金を出すと決めている。この3年、国はラピダス向けを含め半導体支援に4兆円の予算を確保してきた。

財務省は半導体支援が野放図に膨らむ実情に警戒を強める。国の予算のあり方を話し合う財政制度等審議会では、日本の半導体向け支援は米国やドイツに比べ国内総生産(GDP)比で突出して大きいと指摘した。

経産省は「米国は補助金だけでなく税額控除が充実している」などと指摘し、これを踏まえれば日本の支援は突出していないと強調。財務省の分析を否定した。

経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の策定過程でも経産と財務の綱引きはあった。素案では「国内生産拠点の整備や人材育成」がうたわれたが、最終版では人材育成などが削られ、財務省がかねて指摘する「必要な財源を確保しながら」支援をすることや、「支援手法の多様化の検討」が加筆された。

それでも骨太方針には「次世代半導体の量産等に向けた必要な法制上の措置」を検討するとの文言はしっかり残った。「新法の整備に向けて大きな一歩」(経産省幹部)と、担当者は一様に安堵感を示す。

財務省は補助金以外の支援につながる法整備そのものは反対していない国が前面に出る産業政策も明確に否定はしない。政府保証については「融資が焦げ付いた際の影響も考えるべきだ」(同省幹部)と釘を刺す。

半導体支援政策の作り方

さて、記事では、多額の補助金や政府保証を付けたい経産省と、財政規律を遵守したい財務省の違いが浮き彫りになっています。

それでは、記事には、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)や、予算など色々な言葉が出てきますが、2024年にどのようなスケジュールで、検討が進んでいくのか説明します。

1.2024年5月31日に経産省省内での有識者の検討会議(まずは、経産省内での検討と世間への打ち出し)
第11回 半導体・デジタル産業戦略検討会議が開催

2.2024年6月21日骨太の方針が閣議決定(政府全体の文書に入れ込むことで、政府全体の方針に)
=P12に以下の文言が掲載される。
「産業競争力の強化及び経済安全保障の観点から、AI・半導体分野での国内投資を継続的に拡大していく必要がある。このため、これらの分野に、必要な財源を確保しながら、複数年度にわたり、大規模かつ計画的に量産投資や研究開発支援等の重点的投資支援を行うこととする。その際、次世代半導体の量産等に向けた必要な法制上の措置を検討するとともに、必要な出融資の活用拡大等、支援手法の多様化の検討を進める。」

3.2024年8月末までに財務省に予算の概算要求を行う(経産省から財務省へ依頼)
=同時並行的に、経産省内で法律の作成を進める

4.2024年12月末に予算案が閣議決定される

さて、「骨太の方針」に半導体支援には、「法律上の措置」と書かれています。

これは、「半導体支援のような大きな政府的なばら撒き政策をする時は、しっかり法律を作ってね♪」、という財務省→経産省へのメッセージです。

それでは、なぜ、法律作成が必要なのでしょうか?

骨太の方針、P12


それは、日本国憲法83条によります。

第7章 財政
〔財政処理の要件〕
第83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

国の財政(国民の税金)を使用する、それも半導体分野に大型の補助金を出すことは、「財政民主主義」による必要があります。

つまり、「国会で十分な熟議を尽くして、法律を成立させること」=「国会議員の過半数の可決」=「民主主義による決定」が求められます。

そのため、法律を作る→国会で審議する→国会で成立する→補助金を付けるという順番が必要です。

TSMCの事例

実際に、過去の事例もあります。

2022年6月経産省はTSMCに対して4,760億円の補助金を出すを決定していますが、これは、2021年12月6日に閣議決定され、12月20日に国会で可決された「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法の一部を改正する法律」が根拠になっています。

経産省が法律を作る→2021年12月6日から国会で審議する→21年12月20日に国会で成立する→2022年6月、経産省がTSMCに対して4,760億円の補助金を付ける

というプロセスを経ています。

これで、1.半導体支援の解説を終わりにして、改めまして、

第二次岸田政権のどのような政策が、大きな政府の経済政策(=財政拡張政策、統制経済)に当たるでしょうか?

2つ目は、環境分野支援になります。

2.環境分野支援

環境分野への様々な支援策があるなかで、「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を例示したいと思います。

これも、半導体分野と同様に、法律を作る→国会で審議する→国会で成立する→補助金を付けるという作業手順です。

脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」を作成→2023年2月10日から国会で審議→4月28日に成立→2024年2月にGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債を発行

というプロセスを経ています。

さて、そもそも、「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」とは何でしょうか?

「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」とは?

日経新聞の記事から引用します。

日本は2050年にCO2など温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げている。GX経済移行債はそのための資金を調達するための仕組みだ。

投資家からお金を集めて5年がかりで返済する「5年債」と、10年で返済する「10年債」の2種類を発行する。

現状では個人でなく、主に国内外の機関投資家を対象にしている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD288TT0Y4A220C2000000/

初めて発行した10年物のGX債の引き受け手は、日銀が42%を占めていますが、今後、海外投資機関などが保有すれば、当初の目的を達成していると言えます。


GX債の使途は?

さて、このGX債の具体的な使途が気になります。

24年3月16日の日経新聞の以下の記載があります!

脱炭素分野の新興支援2000億円 経産省、設備投資まで
経済産業省は蓄電池など脱炭素分野のスタートアップを対象に、研究開発から設備投資まで必要な資金を支援する。現在は研究開発の補助金にとどまり、事業拡大する段階で資金が不足しがちだった。5年間で2千億円を確保し、日本企業の競争力の底上げを狙う。

経産省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がスタートアップの設備投資などを支援できるようにする。今国会でNEDO法の改正をめざす。

設備投資額の2分の1、最大50億円の補助を検討する。財源には政府のGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債を使い、複数年にわたる予算を確保する。

補助金は、財政規律の観点から、単年度主義です。
補助金の対象毎に、毎年、上で挙げた、以下の予算要求プロセスを繰り返さなければいけません。

今年度付いた予算が、来年度付く保証は、全くありません。

3.2024年8月末までに財務省に予算の概算要求を行う

4.2024年12月末に予算案が閣議決定される

しかし、予算源が債権(bond)であれば、複数年に渡る予算確保を要求することが出来るので、複数年で予算が付くという安定的な見通しが立ちます。


長くなりましたが、

第二次岸田政権のどのような政策が、大きな政府の経済政策(=財政拡張政策、統制経済)に当たるでしょうか?

という質問に対する例として、

1.半導体支援、2.環境分野支援、を一例として挙げました。
1の財源は、国民の税金です。2の財源は、建前は海外投資機関などからの投資ですが、現状は日銀保有割合が大きいため、実質的には税金です。

というわけで、税金を原資に、特定の産業分野(半導体、環境)に補助をして、企業を強くしていく取り組みの紹介です。

このように、第二次岸田政権では、大きな政府としての経済政策を実施しています!


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