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親の「受ける構え」を育てるーミニ読書感想『発達障害とことばの相談』(中川信子さん)

言語聴覚士・中川信子さんの『発達障害とことばの相談』(小学館新書)が勉強になりました。2009年8月8日初版の比較的昔の著作でありながら、約10年かけて5刷。隠れたベストセラーと言っていいでしょう。子どもの言葉を育てるために、親が子どもの言葉を「受ける構え」を育てる必要があることが学べました。


発話を巡り、著者が「とても面白かったのでよく使わせていただいているエピソード」(p63)があると言います。それは、保護者会の間、つっけんどんなおじいちゃんに預けられた幼稚園児の話。

その子は「りんご食べたい」「おなかすいた」が言える子だったのにも関わらず、そんなことを言うとおじいちゃんに厳しく叱られることが予測できたので、無言を貫いた、というのです。この教訓を、著者は次のように語ります。

 それこそがコミュニケーション意欲の問題を表しています。
 コミュニケーション意欲というのは、言う側に能力があるかないかではなく、相手、受ける側が、「受けるよ」という構えを持ってくれているかどうか、にかかっている、ということです。それによって、子どもの持っているコミュニケーション意欲がちゃんと発動するかどうかが変わってくるのです。

『発達障害とことばの相談』p64-65

目から鱗が落ちる指摘でした。

発達障害や言葉の遅れというと、つい子どもの問題に思えてしまう。しかし実は、親の側が、子どもが話しやすい環境や雰囲気を作れていないというのは、たしかにあると感じます。

さらに、この「受けるよという構え」の話は、逆に発達障害の困難さを示すものでもあると思うのです。実際、発達障害の可能性が指摘されたわが子とのやり取りでは、親の言葉を受ける構えがあまり感じられないことが多い。目線が合わないとか、応答がないとかで、どうしても「親の発話」が阻害されてしまう面があるのが、正直なところです。

しかし、これで諦めると、本当は誰よりも「受けるよ」という構えを必要とする子どもに、その構えを提供できない状況に陥ります。だからこそ、発達障害の子を育てる親としては、自分自身の構えを意識し、鍛える必要があると言えます。

言葉を言わせるのではなく、引き出す。言語聴覚士をはじめとした支援者が取り組んでいるサポートの肝が、端的に学べました。

本書はこのように、本質的だけど平易で、日常的なアドバイスに溢れている。発達障害のある子の子育てで何を意識すべきか、入門書としては格好の一冊だと感じました。

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