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耕運機は畑に、スーパーカーは高速道路にーミニ読書感想『発達障害という才能』(岩波明さん)

精神科医・岩波明さんの『発達障害という才能』(SB新書、2021年11月15日初版)が学びになりました。オードリー・タン氏、三木谷浩史、ニトリの似鳥昭雄氏など、現代の傑出人の発達障害的特性を分析し、その特性をどのように活かして「才能化」しているか分析している本です。

「発達障害者は天才だ」と賛美する本ではありません。そうではなくて、特性の活かし方、「異能」である人と共に生きる社会をどうつくるかを考えるきっかけとなる本でした。


心に残ったのは、似鳥氏と対談した佐藤優氏の発言として登場したこのセンテンスでした。

最近、兼本浩祐さんという医師が書いた『発達障害の内側から見た世界』を読んだのですが、とても興味深い内容でした。人間の適性について、例えば、耕運機とスーパーカーを考えてみるわけです。耕運機で高速道路を走ったら、周りに迷惑だし、危険です。一方、スーパーカーが畑を走っても、耕すことはできない。要するに人それぞれ適した場所が違うという話で、自分の適性に合う場所にいればよいということが書いてありました。

『発達障害という才能』p93

耕運機とスーパーカー。これは発達障害と定型発達の異なり方を見事に言い表しています。要するに、両者は比較するものではない。それぞれ場所によっては効果を発揮するし、場所によっては危険性さえ起こしうる。

本書では、「日本社会の同質性や排他性をどう変えていけるか」がテーマになっていますが、通読するとこの答えも「耕運機が生きる畑を用意する」になるように感じました。日本ではどうにも「耕運機もなんとか高速道路を走らせる」になりがち。そうではなくて、異能、はみ出しもの、そうした人がそうした人として生きる場所を、ある種「ほうっておく」ことが大切になりそうです。

場所を変える。この大切さは、本書の最後に収録された対談でヤマザキマリさんも語っている。

私の母親は、この子はこのまま大人になると日本では絶対に苦労するとわかったので、海外へ行くことを提案したのだと思います。価値観が違う場所に行くことで、まず、自分がいる場所はここだけしかないという狭窄的な視野から解放されます。

『発達障害という才能』p239

発達障害による二次障害の多くは、まさにこの「ここにいるのがつらいのにここにしかいられない」から生じているように思います。

もし自分や、我が子がスーパーカーではなく耕運機だと感じたら。そうしたら耕運機が活躍できる畑を探しに出かけるのが吉なのでしょう。

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