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首が長くなったから高い木を食べることにしたーミニ読書感想『死なないやつら』(長沼毅さん)

生命の本質を追求する生物学者、長沼毅さんの『死なないやつら』(講談社ブルーバックス、2013年12月20日初版)が面白かったです。超高温や放射線など、過酷な極限環境でも生きられる生物を通じて「生命とは何か」を考える本書。とりわけ響いたのは「進化とは何か」を考える第3章でした。


進化論を語る時、ミームとしてキリンの例が使われます。突然変異で生まれた首の長い個体が、高い樹木の葉を食べるのに適していた、と。つまり、「キリンは高い木の葉を食べるために首が長くなった」と語りたくなりますが、著者はこれを正しくないと指摘します。「何かの目的をもって遺伝子を変異させているわけではないのです」(p108)

著者によると、実際は順序が逆。まず、首の長い個体が突然変異で生まれる。まずそこがスタート。もし、周辺が低木なら不利。しかも、首が長いと池の水を飲むのも不便です。

 このままではまずい。みんなと同じことをしていたのでは生存競争に勝てない。生き残るためには、発想の転換が必要でした。キリンに「発想」があるかどうかはわかりませんが、ともかく仲間とは違うことを試みるうちにたどりついた選択が、長い首という特徴を活かして、高い木の葉を食べるというライフスタイルだったのではないでしょうか。

『死なないやつら』p111-112

キリンは長い首に生まれて「しまった」ので、生き残るために高い木の葉を食べることにした。これは、かなり衝撃の進化論です。同時に、障害や病といった困難にある人にとっては、勇気付けられる進化論ではないでしょうか。

ある意味、キリンは「ままならない身体」で生まれ、だからこそ工夫をした結果、他の個体が当たり前に食べる低木をスルーして、高さのある木を食べるようにした。そして、なんと今となっては、首の長いキリンこそ生存している。つまりは、試行錯誤の結果である。

それを結果側から見ると、あたかも高い木を食べるためにデザインされたかに見える。進化は目的を持ったかに見える。でも、そうではない。

ままならない命を、それでも生きる。それこそが、時にその種全体を導く光明につながる。

それは生きてみなければわからない。だから生きてみようよ、というエールに、私には思えました。

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