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「三体Ⅲ 死神永生」の結末を妄想する

超弩級宇宙SF「三体」シリーズの最終巻「三体Ⅲ 死神永生」が、いよいよ5月25日に発売される。これまで読者の予想の上の上の上をいく、凄まじい展開のドラマ。そのラストを妄想する時間は、今しか残されていない。ということで、きっと当たるはずのない結末予想を書き残したいと思います。「三体」「三体Ⅱ」のネタバレを盛大に含みますので、以下、ご注意ください。




宇宙文明の公理

三体は端的に言うと、地球より遥かに高度な文明を持つ三体文明と、地球文明の生存競争だ。三体文明は居住する星が「三つの太陽」を抱え、予測不可能な天体運動による天変地異で何度も滅亡を経験。そんな中、人類の先行きに幻滅した一人の人間が宇宙に発したメッセージを三体文明が受信し、地球への移住と、地球文明の滅亡(刷新)に動き出したのだった。

この三体文明の思考を動かすキーコンセプトとなっているのが「宇宙文明の公理」だった。この公理は「三体」の物語世界そのものの背骨でもある。それはたった二つのセンテンスに集約される。

①生存は文明の第一欲求である
②文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である(「三体Ⅱ」下巻p291より)

文明はまず生存を至上とする。そのため、自己の文明の生存に欠かせないのならば、他の文明を侵略、滅亡させることは当然正当化される。特に、宇宙空間を隔てた他の文明はコミュニケーションが困難で、平和的な関係を築くよりも先制攻撃を仕掛けるメリットが大きくなる。これを「猜疑連鎖」と呼ぶ。

もちろん共存の道もなくはないが、宇宙のキャパシティは限定的である。一方で、文明の成長は限りない。このことを「技術爆発」と呼ぶ。技術爆発の可能性がある限り、相手の文明はいつ宇宙の余白を必要とするか分からず、さらには自分たちを凌駕するかも読めず、猜疑連鎖が強化される。

つまり、宇宙文明の公理に則ると、技術爆発を懸念する猜疑連鎖から、三体文明は地球文明を先制攻撃する以外の選択肢はなくなる。

「三体Ⅱ」では、この大原則を逆手にとることで、地球文明の防衛が図られた。三体文明に対抗する「面壁計画」に選ばれた元天文学者ルオ・ジーは、三体とは異なる高度文明(文明Xとする)に地球の存在を匂わせる発信「呪文」を行うことで、三体文明と文明Xの衝突の可能性を誘引。三体文明はやむなく、ルオ・ジーの要求にしたがって侵略を中断するした。このまま地球に来たところで、文明同士の全面戦争が起きてしまうからだ。

最終巻では、ここから話がどう展開するかが注目される。しかし、宇宙文明の公理と、猜疑連鎖・技術爆発の2概念が鍵になることは間違いない。


ハッピーエンドかバッドエンドか

焦点は、地球もまた宇宙文明の公理に従って動くのか、それともオルタナティブを探すのか、ということだと思っている。

地球は、三体文明の侵略をいったんは食い止めた。しかし、公理に従うのならば、宇宙空間を競い合う文明がある以上、それは滅ぼさなくてはいけない。つまり次の展開として、地球文明は三体文明の殲滅、ひいては文明Xをも攻撃するべく、技術爆発に勤しむしか道はないように思える。

「三体Ⅱ」の終盤では、地球文明が三体文明と異なるのは、「愛」があるからだということがほのめかされた。たしかに、猜疑連鎖と技術爆発の原則は、地球内の各国の関係性にも当てはまる。しかし人類は、各国各人のゼロサムゲームは選ばず、不完全ながらも平和的な共存を目指して日々を送っている。

この「愛」を、宇宙レベルまで広げていくことが可能なのか。それともやはり、宇宙文明の公理の前では戯言にすぎないのか。

私は、「愛」に光を当てた作者の劉慈欣さんが、簡単にそれを手放さないと信じたい。もちろん、革新的なアイデアが必要だ。そもそも互いに分かり合えないから山体文明と地球文明が争っているのだし。でも、これまでの各巻でもあったように、あっと驚く方法で猜疑連鎖と技術爆発のジレンマを突き崩してくれるのではないか。だから、ハッピーエンドなんだと思っている。


地球文明は生存できるのか

もう少し、悲観的でクールな視点から妄想することもできる。このままで、地球文明は生存できるのだろうか?

鍵となるのは三体文明ではなく、文明Xになる。「三体Ⅱ」下巻で、文明Xは小さな惑星レベルなら瞬時に壊滅できるレベルの宇宙的攻撃力を持つことが分かっている。今の地球文明には敵わないことは明らかだ。

三体文明としては、地球侵略が叶わないなら、もう自滅するしかない。だったら文明Xにメッセージを送り、地球もろともなくなってしまえと自暴自棄になることだって別に不自然ではない。この破滅的シナリオを回避できるのか。

宇宙的には弱者である地球の生存戦略としては、文明の「偽装」があるような気がしている。つまり、文明Xを上回る文明Yの存在をどうにか作り上げ、それを抑止力にして文明Xの侵略を斥けるということだ。

ただ、現在の地球は三体文明が展開した「智子」によって、ほぼ全てのコミュニケーションが盗聴・監視されている。文明偽装のハードルは相当高いし、ここでもどう実現するのかのアイデアが求められる。

宇宙文明の公理に従えば、技術爆発に限界はなくても宇宙には限界があるのだから、この宇宙にはどこかに相対的に「最強」な文明があるはずだ。それが登場するのか、それとも藪の中だよねとなるのか、そこも気になるポイントだ。

確たる答えは何も持っていない。けれど、劉さんはきっとまた読者を驚かせてくれるだろうことは確信を持っている。発売日が楽しみです。


三体は各巻、冒頭分が面白いと言う話を前に書きました。こちらはネタバレなし。


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