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子どもが言語を学ぶすごさが分かるーミニ読書感想「言葉をおぼえるしくみ」(いまいむつみさん・針生悦子さん)

発達心理学者の今井むつみさん、針生悦子さんの「言葉をおぼえるしくみ」(ちくま学芸文庫)が刺激的だった。乳幼児はどのようにして言葉を話せるようになるのか?さまざまな実験でその仕組みに迫る。我が子が言語を学ぶことがいかにすごいことなのか、実感することができた。


そのすごさを集約しているのが次のセンテンス。

最初は多くのことを統合しようとせず、局所的な処理を集中して行うところから始め、学習の結果得られた知識の増加と脳機能の発達がバランスをとりながら並行して発達することが、子どもの言語の習得における熟達の過程の特徴であり、言語以外の多くの領域の学習と比べて言語の学習をユニークなものにしているといえる。
「言葉をおぼえるしくみ」p363

言葉を学ぶのは、よくよく考えると難しい。たとえば「ウサギ」というワードをとると、これが目の前の動物のことなのか、それとも目の前のものが「白い」ことを示すのか、それを一体どう判断するのか。動物だと分かっても、そのうち耳のことやクリクリの目を指すのか、それともあのフォルム全体を指すのか、どうなのか。

しかしながら、子どもはこの「推定」を瞬時に、かつかなり正確にやっているそうだ。これは「即時マッピング」と呼ばれる。

実は、即時マッピングは局所的であることが本書を読むと見えてくる。つまり、ウサギという単語に出会った時、「それは動物というカテゴリーの哺乳類の中の、さらに一部」と演繹的に処理しているのではなく、「どうやら目の前の生き物のことだ」とひとまず限定的に記憶する。

その上で、たとえば犬や猫と出会い、大人が「猫ちゃんだ」「ワンワンだ」と言うのを聞き、「どうやらウサギとは別の名詞があるようだ」と学ぶ。そうした蓄積をもとに動物というメタ知識を形成し、今度はメタ知識を活用して他の動物の名詞を覚えていく、というある種のスパイラルが発生する。

ひとまず「仮の言語地図」を大胆に構成し、学ぶごとにその地図をアップデートしながらも、地図にはないことにも柔軟に対応する。子どもが複合的な学びに取り組む姿が見えてくる。

本書では、この学びを実験を通じて細かく検証していく。言語を学ぶ仕組みにはたくさんの謎があり、まだまだその多くは解明できていないことを学べたのは、本書の大きな楽しみだった。

言葉自体の面白さも噛み締めた。たとえば、中国語には「持つ」に相当する動詞が20近くあるそうだ。持ち方や持つ位置で微妙に変わる。「歩く」も欧米言語ではかなり使い分けがあるらしい。

言葉も、子どもの発達も、奥が深い。

つながる本

本書を手に取るきっかけになったのは、石井光太さんのノンフィクション「ルポ 誰が国語力を殺すのか」(文藝春秋)でした。表現する言葉が乏しくなり、生きるのに困難を抱える子どもたちの姿が克明に描かれています。

今井むつみさんは「英語独習法」(岩波新書)も非常に面白かったです。本書ともつながる、言語習得のキーワード「スキーマ」について学べました。

それぞれ感想記事はこちらに書きました。


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