ホモ・デウスになる覚悟はあるか?ーミニ読書感想「セックスロボットと人造肉」(ジェニー・クリーマンさん)

ジャーナリスト、ジェニー・クリーマンさんの「セックスロボットと人造肉」(双葉社)が(言葉は適切か分からないが)面白かったです。タイトルが非常に刺激的ですが、性愛、食、そして妊娠出産、死(人生の最期)という人間の根源的な四つのテーマについて、劇的な変化をもたらすテクノロジーの現在地を取材して回った好著です。




ロボットと性愛を交わし、生身の人間は必要ない。高級牛肉を工場で、細胞から生産する。人間ではなく生命維持装置の中で胎児を育てる。そして、人生の最期を「安楽死マシーン」でいつでも選択できる。紹介されているテクノロジーは、こんな人間の生活を実現しうるものです。

それは、ユヴァル・ノア・ハラリさんが提起した「ホモ・デウス(神のヒト)」そのもの。そう感じました。

本書で紹介されたテクノロジーの本質は、人類にある種不可欠な苦痛を取り除くものでした。人間に近いセックスマシーンは、本来であれば生身の人間と起こさざるを得ない摩擦を回避する。人口子宮は妊娠を外部化し、危険を伴うお産から女性を解放し得るものです。

しかし、そうした夢のテクノロジーには少なくとも現時点では、とんでもなく高額になることが予想されている。ハラリさんもホモ・デウスは遺伝子操作などのテクノロジーを利用できる富裕層と、そうでない所得層の格差を顕在化させると説いていましたが、それが本書では裏打ちされました。

また何より、ホモ・サピエンスからホモ・デウスになるに当たっての倫理的課題が大きい。著者のクリーマンさんは、この倫理的課題への批判的考察を忘れません。

たとえばセックスロボットに対しては、それが開発企業の言うように「人間関係が不得意な孤独な人々にパートナーを提供する」という理想だけを見て良いのか?それは、女性をモノ扱いする思考を助長し、より危険な暴力を誘発しないのか?ある種、新たなタイプの奴隷を生産しているのではないかと追求します。

これには納得だし、心がモヤモヤしました。ロボットと人間とするような性愛が可能なら、人間同士の性愛はどうなるのか?

「あなたはホモ・デウスになれるとして、本当になりたいのか?」そう問われている気がしました。

本書で登場したテクノロジーの開発速度はあまりに急速で、倫理的課題について思い悩む前に、現物が世界に姿を見せる可能性はおおいにある。私たちは「いつのまにかホモ・デウスになってしまう」、そういう世界線を生きているのだと感じました。

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