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誠心誠意誠実に『ジンセイハ、オンガクデアル』を読んで

久しぶりにnoteを開いた。
前回も少し触れたのだが、今月初めにワンピースの最新巻が出てから、1から読み直しをしていた。
そして、晴れて、昨日最新巻まで読み終えたのだ。
尾田さんって博識だね。この世界観を作り出しているって、ほんとすごい。
で、その間も読書はしていたのだが、いかんせんワンピースにさく時間が多すぎてnoteは更新する気になれなかった。

そんなこともあるよね。

で、久しぶりの更新を思い立つには、素敵な本との出会いがあったわけで。
またまたやっぱりブレイディみかこなんだけれども、彼女の書く文章は、個人的に大好きだ。ほんと。
伝えたいことは、ばさっと!ぐさっと!表現しているから、分かりやすい。そしてスカッとしたり、しんみりしちゃったり、ぐっと心を鷲掴みにされたりするこの感じ。
さらにブレイディさんのブログや書籍に登場する人物も、なんだか好きなんだよな。みんな粋なんだよ。

今回、登場していた人物で、ブレイディさんの息子の親友の父がいる。
この父、ブレイディさんの表現をそのまま残すなら「黒人の恵比須さんみたいな顔で笑うユースワーカー」なのだそう。
で、その父が放った一言に、心を掻っ攫われ、点と点が線で結ばれ、気づけば激しいヘッドバンをかまし、noteを開き、とにかく残さねば!!という思いに取り憑かれてしまった。


かなり唐突だが、私には大好きな喫茶店があった。最初にその店を訪れたのはもう10年近く前になる。
今はもう店を閉じてしまっているのだが、私はそこの店主さんが大好きだった。
からっとした性格で、気取らず、グフフッと笑う。
営業電話なんかがかかってくれば、ばさっと物申すけど、決して冷たい人ではなくて、義理人情にあつく、小さなお店の中にはだいたいお客さんが必ずいて、わいわい会話が飛び交っていた。

で、私は引越しを機に、お店にも顔を出さなくなったのだが、SNSでは繋がっており、たまーに報告がてら連絡をしたり、投稿へコメントしてみたり、いいねをしてみたり、ゆるっとした交流を続けていた。

そして数年の月日が経ち。
気づけばその店主さんのSNSでの投稿は、何某の政党支持者として、自分の正義を振りかざす投稿まみれになり、攻撃してくる他政党の支持者を見下し、挑発するようになっていた。

私はなんだか悲しかった。
とにかく、悲しかった。

小さなお店の中で、一見さんでも常連さんでも構わず会話をし、あったかい感情で店内を満たしていた喫茶店の店主さんのイメージを、私が勝手に作り、勝手に壊れたと悲しんでいるのだろうか。
桜井和寿が言うように、今以上を欲しがるくせに変わらないものを求めすぎなのだろうか。

どの政党を支持していてもいい。
どんな主義主張をSNSでするのも自由だ。
だけど、なぜ、こんなにも嫌な気持ちになったのだろう。

こんなモヤモヤをずっと心に抱えて過ごしていた。
そして、今日、そのモヤモヤがスッと消えてなくなった。

また、唐突に本の内容へと舞い戻る。
先に触れた恵比須顔の父の話だ。
ブレイディさんの息子の親友には兄弟がいるらしい。
その長男はティーンで、家で友人たちとテレビゲーム中、友人たちとしていた会話を聞いた恵比須顔の父の対応が素敵だったのだ。

「いやあいつはバカっしょ。しかも赤毛。しかもレイシスト。粋がって『ニガー』とか言いやがるから、俺は言ってやったね。『ふん。女も知らねえくせに。ファッキン不細工なファッキン童貞野郎』って」
「おー、言ったれ、言ったれ」みたいな感じで二人の友人は笑っている。
と、エプロン姿でパンを焼いていた恵比須顔の父ちゃんが、勢い長男の方に近づいて行って、ばしこーんと後ろ頭を叩いた。
「痛えー、何すんだよー」
と抗議する長男にエプロン姿の恵比寿は言った。
「どうしてそんなファッキンばかたれなことを言ったんだ」
「だってあいつファッキン・レイシストなんだよ」
「そういうことを言ってはいけない」
「ふん、あんなアホにはヒューマンライツは適用されない。あいつは最低の糞野郎だ」
「俺はPCの問題を言ってるんじゃない。レイシストに同情しろなんて言ってないし、糞野郎は糞野郎だ」
血気盛んな十代の黒人少年たちの前に仁王立ちしたブラック恵比須は言った。
「だが、俺たちの主張を正当にするために、俺たちはそんなことを言ってはいけないのだ」

『ジンセイハ、オンガクデアル』p.266-267より引用

そうなんだよ。そうなんだよね。
主義主張を訴えるために、たとえどんなに糞野郎な相手でも、傷つけられたり、見下されていい糞野郎はいないのだ。
そして相手を傷つけたり見下すことで、自分自身の誠意まで傷つける必要はないのだ。

”誠意はガラスのボール”
この恵比須顔の父は、そのことを深く理解している方なんだろう。

※5つのボールの話はこちらで紹介している。



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