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愛は自由

時計の針が止まったような気がしたことも、
息が苦しくなったことも、葉っぱの輝きや蝉の鳴き声が
急に肌に触れるくらい近く感じられたことも、
それらなにもかもがわけもなく愛おしく思えたことも。


骨董品店の長女に生まれた麻子は、生真面目な性格で
中学生まで年子の妹七葉とはなんでもわかりあえていた。
でも、中学生になり、自分の中でというものが生まれた瞬間
すべてに変化が生まれた。
たったそれだけのことで自分の内側がどこかへずれてしまった。
今まで順位など考えたことがなかったのに、
突然七葉が2位になった瞬間だった。
子供が少女へ変化するとき、家族とのなにか秘密を抱えたことへの
高揚感と罪悪感
私も初めて彼氏ができた時の何とも言えない気持ちは
いまでも覚えている。
いつもの自分がいなくなる瞬間。
恋をしただけなのに、世界が変化する瞬間。
あの瞬間はもう味わえないのかと思うととても悲しい。
でも、あの瞬間を思い出すだけでわくわくする。
青春の1ページだ。

思う気持ちには何かを足すのではなく、掛けなければならなかったらしい。


麻子と七葉は同じものを好きになった。
骨董品のお皿を取り合ったときから麻子は七葉には敵わないことを知った。
心から欲しいものを欲しいと言える情熱を
自分は持ってないのだと麻子は思う。
愼ちゃんを好きになった時もそうだった。
最後は爆発して、欲しいものを欲しいと言える七葉を
ずっと麻子は羨ましいと思っていた。
自分は負け続けるのだと。
そして、離れることを決意する。
家族から、そして七葉から。

私はずっと知っていた。
知っているからこそ忘れたいと願った、閉じ込めたはずの記憶だった。


大学生になり、寮で暮らし始めた麻子は3年生になり、
就職活動をする中で自分が何をしたいのかわからずにいた。
そして、大手の貿易会社に就職するも靴屋への配属が決定する。

初めは苦戦するも一歩一歩努力していく。
そして、自分の心をときめかせる靴に出会い、
仕事への気持ちがいっぺんする。
靴屋という仕事初めてこちらを振り返り、
次の角あたりで待っていてくれそうな気配がしていると。
そうして麻子は仕事に打ち込んでいく。
好きと知りたいは同義語なのよ。
母はそう言っていた。
でも、麻子は靴を愛せないことを悩んでいた。
遊びに来た叔母に相談すると麻子ちゃんらしい悩みだと言われた。
商品を愛しすぎて身動きが取れなくなった祖父。
だから、その悩みを抱えてるくらいがいいのだと。
でも、麻子は血を恐れる必要はない、
自分にそれほどまでに何かを愛する才能を持っていないのだからと。
身動きがとれなくなほど何かを愛する才能が備わってる人は世の中にどれだけいるのか。
少なくとも私はそんな才能はない。
だから麻子の気持ちがわかる。
中途半端に感じてしまう自分自身のことを悩む気持ちが。
そう悩みながらも麻子はもがきながら仕事に自分に向き合い、
成長していく。
そして、芽野さんに出会い、恋に落ちていく。

二人でいるとそれで足りてしまった。
一緒にいるとなにがあっても大丈夫だと思える。
そんな人に麻子は出会えたのだ。


中途半端だということにずっと引け目を感じていた。
靴を愛したい、誰かを愛したいと強く望んでいながら愛し切れないでいた。
愛せるものが欲しくて焦った。
きっとこのままいくんだろうと思っていた。

でも、麻子は見つけたのだ。
自分の心地いい愛を。
中途半端かどうかなんて
どうでもいいことのような気がする瞬間を味わえる人に。

自分の愛を見つけた麻子は七葉と家族とも向き合えるようになった。
大人になるとはこういうことなのかもしれない。
に変わるとき人は大人になるのかもしれない。
 
Written by なおこ
 
アラフォー女


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