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What’s in a name? that which we call a rose. By any other name would smell as sweet. ーバラはどの名で呼んでも甘く香るようにー

ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか、と死んでいくような気持ちで思った。

この本を読んだ読者は主人公千紘をどう見るんだろう。章を追うごとに少しずつ変わっていく彼女を追いつつも、私は最初の方の、寄る辺のない人間関係の中で途方に暮れた千紘が忘れられない。本を読んでからもずっと、なぜか胸の中の隅っこにちょこんと千紘が居座ってしまった感覚がある。千紘は柴田さんに出会ってから翻弄され、徹底的に傷つけられ、奪われ続けていた。

人間同士ですから、どんなことがあっても僕はいいと思っているんです。

彼の狂気じみた、しかし興奮など一ミリもない破壊願望が千紘の尊厳をズタズタにする。そんな彼女を支え、立ち直らせたのは大学時代お世話になった教授と、男たちだった。

「誰にも自分を明け渡さないこと。選別されたり否定される感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない。自分にとって本当に心地よいものだけを掴むこと」

この本の中では、たくさんの男が出てくる。そして彼らはするりと千紘を通り、またどこかいってしまう。時に激しく奪い、傷つけ、時に与えながら。

だから終盤の、千紘の切実で純粋な願いは胸を打つ。

初めて心から、幸せになりたい、と思った。
私は誰かと付き合って、正しい約束をして、そして、幸せになりたい。

もしかしたら人は誰かと関わって初めて、深く自分の幸せを求めることができるのかもしれないなと思った。社会や世間が決めた相対的な幸せではなく、自分にとっての、絶対的な幸せを。そうであるのならば、たとえ傷つけられて奪われても、ほんの少しは意味があった気がする。そしてそう思いたい。

「関係性を定義つけたら離れていかないものですか?人は」

答えはノーだ。親でも恋人でも友人でも、離れていく人は離れていく。ほんの一瞬で、驚くほどあっけなく。

だけどそれを認められる強さを持っている人はどれくらいいるだろう?私たちは弱い。だから関係に名前が欲しいし、周りからの承認も欲しいし、あれもこれも、どんどん欲しくなる。

あなたはどうだろう。曖昧なものをどれだけその胸に抱いて生きていけるだろうか?

人との繋がりを深く考えさせられる一冊です。


Written by あかり

アラサー女


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