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知る愛、知らぬ愛

愛するとこは辛いのか。

「愛なんて言葉がなければよかった。そうしたら、きっと許してあげられたのに」
 
 
この小説にはいくつもの愛の形が存在する。
くちなしのユマはアツタさんへの愛を感じながら、
腕だけあればいいやと感じ、
妻はあの人のすべては自分のものだと言う。
どちらの愛が正しいのか、幸せなのか、苦しいのか。
 
 
不完全な愛しか抱けない私の中を這うものと、どちらが醜いだろう
 
 
人それぞれのなかに眠る愛に対する感情は人それぞれのものだ。
そこを現実世界と非現実とが入り混じりながらも、
その感情をどうにか言葉で紡ごうとしている。
 
 
欲情でも陶酔でもなく、人を哀れむ心まで、
虫は作り出すことができたのだろうか。

始まりは確かに虫が導いたとしても、私はきっとユージンを愛していた。
 
 
花虫では運命の相手を赤い糸ではなく、花虫で表現している。
どうしようもなく、惹かれ、欲情し、愛しさを感じる相手には
それが見えると。
その感情を操るのが何であろうと、今の愛を幸せだと感じる妻
真実を追い求め、自分の意思こそが本当の自分のあるべき姿だという夫。
その人それぞれの感情、正しさ、何を求め、何に惹かれるのか。
すべてを知ることで生まれる愛なのか、
知らないからこそ生まれる愛なのか。
 
 
炎にまかれる愛の対象と、認識すらされないその他大勢と、その間の、名前のつかない場所。
愛と憎悪の間をものすごいスピードで行き来する、子供のころにはなかった場所だ。
 
 
愛のスカートでは見守る愛の一方通行が書かれている。
触れないものしか好きになれないトキワと、
そんなトキワにどうしようもなく惹かれるミネ。
高校生の時とは違う、大人になってから知る愛の感情。
思い出したくない、でも鮮明に思い出してしまう。
どうしようもない愛の感情。
自分の中にある愛の形とかいったいどんな形なの。
 
けだものたち、薄布、茄子とゴーヤ、山の同窓会
そのほかの作品でも、いろいろな世界で愛というものが
どういうものなのか。
目の前にあることを愛することなのか、
他の世界があると知りながらも、知ることを選ばない愛なのか、
すべてを知ったゆえの愛なのか。
 
さまざまな世界観の中で、知ること、知らぬことでひとそれぞれに異なる愛の形を表現している。
自分は知ること、知らぬこと、知っているが知ろうとしないこと、
どれが一番自分らしい愛の形になるのか。
どれも間違いでどれも正しい。
自分の愛の形は知っておきたいと思うのか、
それさえも知らぬことが幸せなのか。
いろんな愛の形を感じさせてくれるそんな一冊。
 
 
 
written by 直子
 
アラフォー女


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