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正しくも完璧でもない自分で生きるということ

今週はアラサーさんおすすめの本
「夏の裁断」
を紹介したいと思います。

どんな経験でも小説になるでしょう。
数十分前の母の言葉が蘇る。
それでも。
やっぱりできることなら出会いたくなどなかった。

主人公の千紘は、小説家だ。
編集者の柴田と出会い、精神的に支配されていく。

孤独を感じ、精神的に幼さの残る千紘は、
信じるものを間違えているとは思いつつ、
柴田を信じ、支配されていく。
なぜ柴田を信じてしまうのか。

私はふと気が付く。
目の前の男がめちゃくちゃなようでいて、
じつは話を聞くのが上手いことに。


きちんと話を聞いてくれて、欲しい言葉を欲しいタイミングでくれる。
人は簡単だけど、そんなことで信じる相手を、簡単間違えてしまう。
誰が見ても、その人は信じてはいけない相手だったとしても。

どんどん追い詰められていった千紘は、
大学時代にお世話になった教授に相談することにした。

「答え、でないよ」
「答え求めてもない。彼らはなにも考えてない。
ただあなたを刺激して、
自分のほうに意識を向けたら満足して気分で突き放すだけ」
「意味があるかもしれないって」
「思いたいよね。でも、そんなもんないよ」

人がみな意味のあることを人にしているのか。
必ずしもそうではない。
でも、意味があると思いたい。
千紘の気持ちはとてもよくわかる。
相手に意味を求めることがどんなに無意味で苦しいことなのか。
私もよくわかる。
なにか意味があることなのだと、
彼にとって自分はなにか意味のあることをするだけの価値があるのだと。
思っていなければ、
生きてる意味さえないと思ってしまう瞬間も。
とてもよくわかってしまう。

柴田との関係が終わり、鎌倉で静養中の千紘は居酒屋で清野さんと出会う。
遊び相手が何人かいるなかで、清野さんとはどこか、
なにか違うものを感じている千紘。

唐突に、依存している、と悟る。
彼にというより、正確にはその体に。
触れることで私は私を修復しようとしている。
実際、以前よりも私の内側は、静かになっていた。

そして、清野さんと過ごしていくうちに、千紘はすこしずつ成長していく。
強く、そして大人へと。
そして、気が付くのだ。

なんだか辻褄も脈絡もないままに、
清野さんを好きになったことを悟った。


名前もない、何の約束もない関係。
でも、あれほどつらかった柴田との出来事を忘れるほど
千紘は回復していったのだ。
そして、

戻ろう、と思った。
東京に。
どうせ本当の意味で同じ場所なんてないのだから。
なにが起こるか分からないということを、
今なら私は、少し楽しめる気がした。

東京にもどった千紘は、清野さんと関係を続けていた。
名前も約束もない関係。
その関係がふとした瞬間に、苦しくなる時がある。
そして、千紘は清野さんに言う。

「そうやって、そらさないでください。
態度とか、言葉で、お願いだからもっと安心させてよ。
結局、あなたとの間になにもないから、私はあなたになにも言うことだってできない。
明日連絡しなくなったらそれっきりなんですよ。
だから、関係性の名前を」
「関係性を定義づけたら離れていかないものですか?人は」

人はその時の感情に支配される。
その時に感じたことがあとから思うと違うこともある。

鎌倉の秋の夜に、駅のベンチに腰掛けて
私を待っていた彼を見たとき、
これだけで永遠に生きられる気がした。

出会いを通して、千紘が傷つき、それでもなにかを求めて生きていく。
きっと単純で誰もが思っていること。

初めて心から、幸せになりたい、と思った。

それを思えただけで、すべてのことに価値があるのかもしれない。

 

Written by なおこ
 
アラフォー女


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