あの時のわたしは、52ヘルツの声をあげていた。 【52ヘルツのクジラたち】
同じ経験をした二人にしか分からない
声を聴くことの大切さ。
【本の基本情報】
〇ジャンル:日本文学
〇本の種類:単行本
〇著者名:町田 そのこ
〇出版社:中央公論新社
■「52ヘルツのクジラたち」について
「52ヘルツのクジラたち」タイトルだけでは内容をまったく想像できませんでした。
クジラの物語?と思っていたくらいです。
「52ヘルツのクジラ」。
このクジラは、非常に珍しいクジラで52ヘルツの周波数で鳴くクジラのことで、他のクジラと比べて非常に高い周波数で鳴く、世界で唯一のクジラ。
「世界で最も孤独なクジラ」とされています。
この世界で最も孤独なクジラが存在、それを理解した時に、この小説の内容とタイトルがピタッとはまりました。
ピタッとはまった時に、小説の内容がとても深く、切ないものに感じました。
2021年本屋大賞を受賞した作品で、一気に読んでみたいという気持ちが沸き上がりました。
■同じ経験をした二人。その声を聴くことの難しさ、その声を発することの難しさ
本作品は、幼い頃に親からの虐待を受けた主人公が、家族と離れ、ある田舎に移り住むことから始まります。
移り住んだ田舎で、ある一人の少年に出会います。
主人公は、その少年と少しずつコミュニケーションを取ろうとしますが、その少年は会話が出来ない状態でした。
やがて、その少年もまた、親からの虐待を受けているということを知るのです。
主人公とこの少年は、親からの虐待を受けるという同じ経験をしており、主人公は、今でも虐待を受けるその少年のことをそのままにしておくことが出来なくなります。
今虐待を受けているその少年の姿が、過去に自分が虐待を受けていた時の姿に重なり、少年の心情が痛いほど伝わる。
虐待の経験がないものには決して理解することが出来ないその心情。
同じ経験をした二人が少しずつお互いの心情を理解し合い、お互いの存在を大切だと感じていきます。
助けてほしいという気持ちを言葉にできない少年。
その気持ちが痛いほどよくわかるけど、どう受け止めていいのかわからない主人公。
この二人と、二人を支えようとする人たちの優しさ。
これらの気持ちが少しずつ理解しあえようになってきます。
その中で変化していく、成長していく彼らの姿に心をうたれます。
同じような境遇になったことがないけれど、その壮絶な心の痛みを感じながら、優しさをくれる人たちの温かさにも触れることが出来る作品でした。
■「52ヘルツのクジラたち」を読んで!まとめ
本作品は、親による虐待というものを扱った、とても繊細な作品でした。
親たちが彼らにやってきた虐待に怒りや恐怖を覚え、辛くなる場面もあります。
しかし、そんな親にギリギリまで、愛情を求める、純粋で切ない子供。
もしかしたら、母親が、愛していると言ってくれるのではないかという、子供の無条件な純粋な期待。
そんな期待を裏切るような母親の言葉。
本当に胸が痛くなる場面もありました。
その一方で、悲しく辛い経験をしている主人公と少年、この二人を支えよう、助けようと考え動く人たち、悲しい現実と人の温かさに触れられる作品でした。
虐待は絶対にやってはいけないし、許せない。
そんな経験をさせることも絶対にあってはいけない。
本作品では、この辛い経験から立ち直ろうともがく二人の心情を実に繊細に描いています。
二人が少しずつ心を通わせ、ついにその気持ちが爆発する。
ずっと我慢していたことが、もう止められないくらい爆発する。
心のずっと奥からあふれ出す涙と声。
その場面を想像すると、涙が止まらなくなりました。
その涙は、悲しい涙だけど、愛が欲しい!行きたい!という前を向きたいという気持ちの涙にも感じました。
人は生きたいと思う。
今の状況をいい方向へと変えようとする。
この強い心も見えたと思いました。
前を向こうとする人には必ず誰かが手を差し伸べる。
悲しさと、温かさがグッと心に伝わってくる作品でした。
虐待という背景があるため、いい作品という表現がいいのか分かりませんが。
読んでよかったと思える作品でした。
さすが本屋大賞受賞作品です。
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