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暴力に支配された辛い記憶、それでも生に向かい、そして見た光 【土の中の子供】

暴力に支配されたあの辛い記憶!
その記憶に翻弄され続けた人生、人間の生と暴力に迫る。

土の中の子供_読書記録ブログ用

【本の基本情報】
〇ジャンル:小説・日本文学
〇本の種類:文庫本
〇著者名:中村 文則
〇出版社:新潮文庫

■「土の中の子供」を読んで

本作は、芥川賞受賞作品です。
著者は、中村文則さんで、とても楽しみな作品として読みました。

読んでいると、いつものように引き込まれていく表現でした。
幼い時に受けた暴力、そして大人になってもなおその暴力の記憶に支配されもがきながら生きている一人の青年の心を描いています。

とても難しい背景で、描く中村さんの表現がよりリアルさを強め、暴力という記憶に支配された青年のもがきが、実に深く伝わってきました。

■暴力に支配された記憶

本作は、「暴力」というものが子供にどれほどの精神的な痛みを負わせるか、それが苦しくなるほど伝わってくるものでした。

そして、このようなことは実際の家庭でも起こっています。ニュースでも流れている子供の虐待死、実の親が子供を虐待するケースもあります。

本作では、幼い頃に暴力を受けた子供が、大人になり、それでも暴力というものに対する感じ方に心の中を支配されているそんな一人の若者の姿を描いています。暴力、それは恐怖なのか、それとは違う何かなのかそれすらも麻痺して不思議な感覚で暴力を受ける、自ら暴力を受けようとする感覚、暴力を受けながらも暴力を受けていた幼い頃の記憶の中になる痛みや音、匂いなど様々な感覚が交錯している。そんな若者の心の中が細かく表現されていました。

暴力によって乱された人の心、そして成長と共に変化するその様子を見事に描いています。

■「土の中の子供」を読んで!まとめ

本作品は、幼い頃に大人から受けた暴力によって、その心を乱され支配された若者の生きていく様子を描いています。

受け続けた暴力が、どれほど人の心に影響するのか、それは受けたものにしか分からないのかもしれませんが、それが細かく描かれ、そして痛みとなって伝わってきました。

子供の頃の暴力で、若者は、何故暴力を受けなくてはいけなかったのかという点ではなく、その暴力が自分にとって何であるのか、自分の中でそれはどういう形として受け止めているのかを悩んでいるような気がしました。

生きると暴力。この2つが若者の中で共存していて、心が乱された中にも、生きるというある。そして最後に、小さくても希望とも思える光が見える。

現代でもある虐待、暴力というものに苦しみながら、心の中で戦っている人たちがいるのだと思うと、体験したことがない自分には分からない本の中に描かれている感情、それを感じるために、さらっと流して読み終えることが出来ずに、何度も本から空に目を移し考え、感じようとしました。しかし、それはそんな簡単に自分の感情として受けることは無理なのだと思いました。

だからこそ、それを実体験として受けた人は想像もできないほど、心を乱され、支配されたのだと考えました。

本書を読み終え、巻末の解説を読みました。その解説は文芸評論家の井口時男さんが書かれています。その解説の中にとても印象的な言葉がありましたので、紹介しておきたいと思います。

彼らはみな、無防備なやわらかい心のまま、世界の不意の「悪意」に襲われたのだ。
「土の中の子供」中村 文則 巻末解説:井口 時男より

この言葉は、中村文則さんの作品に登場する主人公たちがいずれもむごい経験をしている、そしてそれは無防備な柔らかい心の状態で受けているということを言ったものです。この分の「無防備なやわらかい心のまま」という部分にとても胸が痛くなりました。幼い子供たちは、本当にこのような心のまま、それがいいことなのか、悪いことなのか分からないまま、それを受けているのだと考えると涙が止まりませんでした。

本文のほうで、暴力を受けた子供が大人になり、それでもなおその暴力という記憶に悩んでいる。その感覚を少しでも分かろうと作品を読み込み、最後の解説部で、この言葉を読み感じた時に、無防備でやわらかい状態の子供の心に、暴力が与える影響を想像したときに、絶対に暴力はダメなこと、純粋な心を壊してしまうことは何よりもむごいことなのだと強く思いました。



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