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私の推しがファンを殴って炎上しました・・・ 【推し、燃ゆ】

推し、燃ゆ_読書記録B

今の時代の少女が「推し」と共に生きている。
ある「推し」に夢中になった少女の心情の変化を描く。

【本の基本情報】
〇ジャンル:日本文学
〇本の種類:単行本
〇著者名:宇佐見 りん
〇出版社:河出書房新社

■「推し、燃ゆ」について

「推し、燃ゆ」。

このタイトルを見て「ん?」と思った人と、スッと意味が分かった人がいるでしょう。
私は「ん?」と意味が分からなかった方です!

子供たちは意味が分かっているらしく、子供たちにその意味を教えてもらいました。

「推し」とは、自分が一番好きというか推している人のことを表しているらしく、例えば数人で構成しているアイドルグループがいて、その中で自分が一番推している人のことを「推し」と言っているのです。

では「燃ゆ」とは、この言葉はもちろん「燃える」ということなのでしょうが、そのままの意味ではないようで、今の言葉の意味での「炎上」ということです。
例えばSNS上などで、ある人が失言や不祥事などをきっかけに「メッセージ」や「コメント」、「いいね」などが集中的に投稿される状態になり収拾が付かなくなる状況を表しているのです。

つまりこのタイトルは「推しが炎上した」ということを意味しているのです。

まあタイトルだけでも話題性十分な作品ですね。

そして本作品はといいますと、もちろんタイトルだけが話題となったわけではありません。

内容的にも十分に評価され、第164回芥川賞を受賞しました。
そして2021年の本屋大賞にもノミネートされ、9位という結果を残しています。

タイトルだけでなく、内容的にも十分に高い評価をされた面白い作品です。

■推しにすべてを捧げる少女の心情の変化が伝わる!

本作品には、ある推しに生活のすべてをささげている少女が主人公として登場します。
この少女の推しが、ファンを殴るという問題を起こし、燃える、つまり炎上するという事態になってしまいます。

推しにすべてをささげる少女は、この事態を注視しながらも、推しを応援するという立場をとっていきます。

推しが魅せる表情や推しの言葉や行動のすべてが少女の生活に影響してきます。
推しのグッズを購入したりライブに行く、握手会に行くためにアルバイトをしてお金を稼ぎ、ただ推しのことを考える生活、それだけでいいという気持ちになっています。

本作品では、そんな少女の心情の変化を実にテンポのいいリズムの文章で描いています。
テンポがいい文章で描いていいるのですが、なんとなく寂しさも感じるような雰囲気も感じ取れます。
推しを推す、という少女の一貫した心情と周りの人間、家族との関係、学校との関わりが描かれ、現代的な少女の心情の変化が細かく表現されています。

■「推し、燃ゆ」を読んで!まとめ

実はこの読書感想文を書いているのは、本作品を再読してからです。
初めて読んだ時には、何となく感想を書くまでに至らずにいたので、本日再読して感想を書いています。

本作品は、タイトルはもちろん、内容でも現代を代表する作品だと言えます。

昭和の時代での推しとのかかわり方は、とてもアナログで、ファンレターやコンサート、握手会という程度で、推しはとても手が届かないところにいたように思います。

しかし、現代ではスマホの登場、SNSの普及により、芸能人もこれらのツールを利用して自分をアピールすることが当たり前になっています。

昭和の時代では不祥事などでたたかれることはあっても、時間がたてば、それは収まっていくものでした。
しかし、現代では一度不祥事を起こしてSNSなどが炎上すると、それを消すことが出来なくなるという事態になります。

現代のファンたちは自分の推しが、常にこの事態に巻き込まれていく可能性を持っているのです。

一瞬にして炎上して、一瞬にして引退に追い込まれる。
そんな推しを見て、ファンたちは急激な心情の変化に対応しなければいけません。

何が本当で何が間違った情報なのか分からない。
しかし、事態は最悪の方向へと突き進む、まさに現代の推しとファンとの関係性をリアルに表現している作品であると感じました。

炎上して急激に変化する状況に必死でついていくファンたち、純粋に推しを思う、推しを心の支えにしている少女たちのリアルな叫びが感じられる作品です。

昭和の時代でもアイドルを追いかけるファンたちはいました。
しかし、その存在は手の届かない存在、遠い存在だったから、そして推しの情報もなかなか手に入らない、そんな時代でした。

しかし現代は、SNSなどの普及によって推しをより身近に感じ、推しの情報もすぐに手に入る。
その結果、推しに依存する人は増えていると感じます。

こういった時代の変化による、推しとファンとの関係も実にリアルに表現されていると感じました。
この作品が芥川賞を受賞したということは「まさに現代!」と感じました。

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