久美ちゃんの馬鹿騒ぎ
久美ちゃんは知っていました。私は歴史に名を遺すだろうと。だって私は天才だし、要領いいし、おまけに酒もタバコもしていなかったのです。
久美ちゃんが声を発すると、葉波がざわざわと打ってくれるし、久美ちゃんが恋をすると、時鳥が太陽にむかって鳴くのでした。
それはそれとして、久美ちゃんは友だちがいませんでした。街の中を走れど、騒げど、大地が合わせて鳴動しようと、久美ちゃんを顧みるひとはいませんでした。
「まあええわ、ウチはそんな安っぽくないしな。せやけど、人類史の行く末はぐるぐるしとるなあ」
久美ちゃんは強がっていました。本当は好きなアニメについて話す相手がほしかったのです。
久美ちゃんは知っていました。私は歴史に名を遺すだろうと。久美ちゃんは未来に向けてボトルメールを毎晩放っています。誰かが受け取ってくれると知っているから、なかなか止められませんでした。
今日のご飯やバスの停車時刻、もう十年前に終わったアニメの話……久美ちゃんは魔法少女のアニメが好きだったのです。
「あゝ馬鹿らしなあ、ウチはこんなにも願っているのに、こんなにも美しい体を持っとるのに。ウチにいったいどんな魔法が使える言うんやろうか。ウチは天才や、だってウチは葉波とも時鳥とも大地とも仲がええし、このボトルメールだって絶対に届くし、いつかオトモダチモできて、アニメの話もできる。ウチは仲間をかばって死ぬ主人公が大好きや」
久美ちゃんは知っていました。私は歴史に忘れ去られるだろうと。だって私は天才だし、要領いいし、おまけに酒もタバコもしていなかったのです。久美ちゃんの声はガラスのようにきれいでした。それゆえに狩人にも狙われました
いたって久美ちゃんはうつくしい巫女だったのです。誰もそれに気が付かないまま、
久美ちゃんは今年の夏に二十三歳になります。
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