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ローリング・ストーンズの魅力は黄金期から「Some Girls」に至るまでの三枚にこそある

ローリング・ストーンズのアルバムで一番好きなものは?と訊かれれば、多くの人は黄金期と呼ばれる60年代末期~70年代初期の「Beggars Banquet」「Let It Breed」「Sticky Fingers」「Exile On Main Street」の四枚のうちのどれか、もしくは78年発表の「パンクへの解答」として名高い「Some Girls」、はたまた初期ファンなら「Aftermath」を挙げるのではないでしょうか?

かく言う僕も「Exile On Main Street」が一番好きなアルバムであり、詳細はこちらの投稿で述べていますので是非(宣伝)

ストーンズのキャリアは非常に長く、20枚以上アルバムを出していますが誰が聴いても「名盤だ」と確信すると保証できるのはこの六枚くらいです。
少ないように見えますが約25%でホームランを放てる打者と考えたら結構なもの。
しかも最近発表されたホヤホヤの新作「Hackney Diamonds」が中々素晴らしいアルバムなのですから、彼らの底力は計り知れません。まさかのポール・マッカートニーとのコラボとはなかなかグッとくるものがありましたね。

じゃあその六枚だけ聴いてればいいの?と言われたら、いやそういう訳では無い!と声高らかに言いたい。(そもそも六枚アルバムを網羅した時点であなたは立派なストーンズファンです)

その六枚を聴いたあとに、是非とも聴いて欲しいアルバムが三枚あります。


1973年発表の「Goats Head Soup」

1974年発表の「It's Only Rock'n Roll」

1976年発表の「Black And Blue」

この三枚です。

勘のよろしい方はお気づきでしょう。
黄金期最後のアルバム「Exile On Main Street」から復活作「Some Girls」に至るまでの六年間で発表された三作です。

なぜこの三作を是非聴いて欲しいと言うのか?

それは「生き残るために必死に葛藤していたストーンズ」というこの時期でしか味わえないものがあるからです。

しかしこれは悪い意味で言っているのではなく、むしろこの葛藤があったからこそ、彼らは今になって今後さらに評価されるであろう傑作をリリースすることが出来るまで上り詰めることが出来たと思っています。

そしてみなさんの好きなアーティストには大体「一番好きってわけじゃないけどアーティストの変わった一面が見れて好きなアルバム」があると思うんですよ。

この三枚がストーンズのその立ち位置のアルバムとして、非常に丁度いいんです。

前置きが長くなりました。
それでは僕が愛してやまないローリングストーンズのちょっと変わった一面が見られる三枚、彼らの葛藤と挑戦の六年間をここで紹介します。



Goats Head Soup

タイトルを直訳すると日本語タイトルの「山羊の頭のスープ」になり、ジャマイカの伝統料理らしいです。
実際このアルバムはジャマイカでレコーディングされたのですが、ジャマイカといえばの音楽ジャンルであるレゲエの影響はあまり感じられません。なぜこのタイトルなのかはミックとキースのみぞ知るといったところ…。
肝心の中身ですが、一言で言うなら今までより一層ダーク
「Beggars Banquet」で垣間見せた悪魔崇拝的な一面をここでも伺うことが出来ます。(例えば一曲目の「Dancing Mr.D」のDは恐らくdevilのこと。)

加えて、これまであまり聴こえなかったメロディアスなサウンドが聴こえてきます。ミック・テイラーです。
これが本当に面白い。このサウンド無しにこの時期のストーンズは語れません。
もちろん「Sticky Fingers」の頃には彼はバンドメンバーでしたが、「メロディアス」という路線で本格的に活躍し始めたのは本作からという印象。
例えば「100 Years Ago」のニッキーホプキンスのエレピと絡み合う激しいリズムギター。ブライアン期では確実に作れなかったサウンドです。

そして、これまでになかったものはミック・テイラーのサウンドだけではありません。
「Angie」という本格バラードです。もちろんこれ以前の作品にも素晴らしいバラードは収録されていますが、ここまで哀愁に振り切ったのは本作が初めてでしょう。それがアルバムの空気を乱すことなく、自然と入っている状況を作れたのは、先述のミック・テイラーのメロディアスなサウンドがなし得た技ではないでしょうか。

もちろん「Doo Doo Doo Doo Doo(Heart Breaker)」「Star Star」と傑作ロックソングも存在感を放っており、普通にいいローリングストーンズの一枚のアルバムと言えます。レビュー記事などを見てみると、このアルバムまでを黄金期と数えている人もちらほらいらっしゃいますね。実際全英、全米共に一位を獲得できたのは本作までです。



It's Only Rock'n Roll

客観的に見てミック・テイラーが一番活躍してるアルバムであり、当のミック・テイラーは「ここまでやってるのに俺をクレジットしてくれないのはおかしい」と激怒しバンドを抜けます。そう言われても納得するレベルの活躍を見せているので結構妥当。クレジットしてあげてよ。
彼のソロ、いいので是非。

中身は前作の特徴であったダークなサウンドは控えめに、バラード、メロディアス路線をさらに極めたものであり、特に「Time Waits For No One」のミック・テイラーの名演には脱帽。この曲こそがミック・テイラーが「俺もクレジットしろよ」とキレた曲です。

もちろんチャーリーの力強いドラムから始まる一曲目の「If You Can't Rock Me」、「たかがロックだろ?でもそれが好きなんだ」とある種の開き直りを見せた表題曲のように素晴らしいロックソングも収録されていることも忘れてはなりません。

なんだこのMV・・・w

サウンド以外の特徴として彼らのセルフプロデュース作という点があり、六分越えの長尺の曲が三曲収録されているなど、張り切ってレコーディングしたことが伺えます。その三曲の中でも「Fingerprint File」は彼らのファンク全開、狂気全開で彼らのセルフプロデュースだからこそ発表できた意欲作。特に中間部分からゴリゴリ響くベースはこれまたミック・テイラー。天才かな?



Black And Blue

僕がこの三枚の中で一番好きなアルバムであり、彼ら全体の作品の中でもかなり上位に入るお気に入りのアルバム。
黒人音楽の影響をモロに受け、それにストーンズの根本の特徴と言えるダーティー、ルーズというスパイスを加えた隠れた傑作です。
一曲目の「Hot Stuff」が一番好きです。他のファンクのアーティストでは聴けない、ロックバンドの彼らだからこそ作れた曲。

曲数は八曲と少ないですが、八曲全てが全く違う毛色で黒人音楽をリスペクトしておりボリュームはかなりのもの。
特徴として挙げられるのが全体を通して大活躍しているビリー・プレストンのピアノ。黒人の彼によるまさしく黒人らしい(あまりいい言い方では無い自覚はあります…ごめんなさい)ファンキーかつロックなピアノは、彼らにとってかなり良い刺激となったはずです。
特に「Melody」でビリーが素晴らしい名演を披露し、彼らがジャズという今までしてこなかったアプローチで黒人音楽に接近することを可能にしています。

そして「Fool To Cry」という「Angie」に並ぶ傑作哀愁バラードも収録。幸せなはずなのに何故か涙が止まらない父、それを慰める娘…なんて感傷的な世界観なんだ。好きな曲です。




というわけで、今やロック好きで知らない人はいないモンスターバンド、ローリングストーンズの黄金期と復活に挟まれた彼らの葛藤と挑戦の三枚の紹介でした。
どれも賛否両論を巻き起こした問題作ですが、僕は三枚とも好きです。是非聴いてください。

もちろん「Emotional Rescue」「Undercover」辺りも彼らの80年代におけるディスコミュージックに対する葛藤が伺えるアルバムということは分かっています。紹介しきれなかっただけでどちらもいいアルバムだと思います。

こういう実験的なアルバムがあるアーティストは長続きするでしょう。

…とまで書いて締めくくろうとしたところで、ACDCという見事な反例があったことを思い出して笑っています。

では、よい音楽ライフを!



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