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長夜の長兵衛 熊蟄穴(くまあなにこもる)

寒禽かんきん (上)


寒禽かんきん (下)


 

 風が、土が、水が動くと、気、が変わる。
 だからこうして、時折この谷を訪れる。
金兵衛は全身で受け止める。
 悠々と尾根をこえてゆく青い蒼い翼、あのものたち、まこと、鳥と見分けがつかぬ。風と一つになっておる。

 目の端に、一番弟子の銀兵衛の足元が乱れたのがうつる。風が強いだけでない、谷の気にあてられ魂が右往左往している。
 塞がると思えば塞がる。守られると思えば守られる。
 住めぬと思えば何者も住めぬ。


 長兵衛は、といえば風に逆らわず身を沿わせるように立っておる。こやつはまだ海のものとも山のものともつかぬ、が、しかし。
 瞳にうつしているのは、深い蒼の翼と、そのせなにあるおなごの姿。
 金兵衛の眼が、きらりと光る。

 わしが巣籠の熊とするなら、二人は穴の中に生まれた子熊。どのように、でようか。
 金兵衛の頭上すれすれを、一等強い風がかすめてゆく。
 大鴉様が来なすった。
 金兵衛は左の手を高く高く差し出す。

<了>


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 扉絵は橘鶫さんです。
 鶫さん、ありがとうございました! またぜひ、お願い申しまする。

  


 こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。

 


お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。