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うちの子記念日
性懲りもなく、またソファを購入した。
初代ソファは、一生使えると思っていたほど頑丈なものであった。ところがお犬さまがいらしてからというもの日々、ホリホリ、バリバリあそばされて。パピヨン子ちゃん、あの、大判小判はまだでしょうか。ビリビリ寸前となった頃、引っ越しをすることになり、あっけなく粗大ゴミとなった。
あれから3年。
椅子って、一人しか座れないのよね。
お犬さまは、わたしの足元か、わたしのベッドか、ご自分のベッドで一日の大半をお過ごしになるようになった。
一大事である。
隣で寝そべったり、あわよくば、ぴったりくっついていたり、そういう時間が減ってしまったではないか。
現在の住まいは、前よりも居間が狭い。そこで、ベンチタイプのすっきりしたものを選んだ。ダイニングの椅子の代わりに置く。テーブルとはメーカーも色も違う。店員さんがコンピュータでシミュレーション画像を見せてくれる。画面上ではなんだか様になっているけれど、実際はとってもちんちくりんかも。遊びに来た人に、センス悪い、とか思われちゃうかも。
でも、いい。一緒に座れたら何だっていい。
かなり真剣に、自分は前世でお犬だったのではないかと思っている。そして、うちのパピヨン子ちゃんは、きっとわたしの飼い主であった。なんだか、わたしなどよりずっと徳の高いお方だったのではないでしょうか。ついにめぐりあいましたの。幸か不幸か、人間相手にはこのような奇跡が起きなかったのでございますよ。
男の子なら「湖次郎」、女の子だったら「ほの」だね、と思いながら、お犬を探していたその日、ピピピッときましたのです。
あ、ほのちゃんがおった。
月齢の若い仔犬たちはショーケースの中に居る。しかし、売れ残り組は、床置きのケージの中。パピヨン、値下げしました! マルチーズがギャン鳴きしている隣で、びくともせずにぐうぐう寝ている、大物感。抱っこして、ねえ私たち、家族になろうか、と言うと、うん! と、のたまったのである。
うちに着いてすぐ、仔犬は自分の5倍ほどもあろうかという大きな紙袋を咥えて部屋中を走り、ぶんぶんと振り回してみせた。
ただものではない。
もうお気づきでしょうか。わたくしの名前はお犬さまより頂戴いたしました。
本名は、もうびっくりするほど姓名判断の結果がアレである。「〇〇ほの」さんは、なんと、わたしよりずっといいのである。ちなみに「ほの」は、ハワイの海亀ホヌ、からとった。ほぬ、って呼びにくいので、「ほな、ほに、ほぬ、ほね、ほの」と連呼して決めた。
曲を書いたとき、「ほのん」と名乗っていたのだが、ペンネームを考えようと姓名判断のページに思いつく限りの単語を叩きこんで、「穂音」を苗字とする案にたどり着いた。正式には「穂音いづみ」と申しまする。いつか使う日が来ますように。
初代ソファに座るわたしの膝のうえで、仔犬は多分生まれてはじめてテレビを見た。
そこに映されるのは、瓦礫、海、東北の街。
予定では3月12日、仕事をしているはずだった、けれども交通が停止して中止になった。
休みになったお陰で、体力が回復した。
そうでなかったら、3月13日、近所を散歩したりしなかった。こんなところにペットショップがあるのを知らずにいた。
このお犬がいなかったら、わたしは今、生きていたかどうかわからない。救世主パピヨン子。
3.11がなかったらめぐり逢わなかった。
そのことの持つ意味を、まだ説明できずにいる。考えることを避けている。
いや、思いを巡らすような資格が自分にあるのだろうか。
奇しくも、3月13日に新しいソファが届く。
10回目の、うちの子記念日に寄せて。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。