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尾も白い犬のはなし 6 白い犬とワルツを


“まるで燃えたつ星のようにぼうっと輝く白い姿が浮いたり沈んだりしている”


 ねえ、サム。貴方もうすぐ、こっちに来るのね。フロスティーが知らせに帰ってきたのよ。わたしたちまだずっと若い頃、真っ白い犬を拾ったでしょう、アルマが生まれたあと、どこかへ行ってしまったけれど。あのこね、わたしのこと、真っ先に迎えに来てくれて、一緒に虹の橋を渡ったのよ。そして、トーマスのところへ連れて行ってくれた。トーマス! 愛しい息子! あんなに若くして亡くなった可哀想な子! やっと会えた。

 貴方を残していくのが、どれだけ心残りだったことでしょう。まさか、わたしの方が先だなんて。ケイトもキャリーも、すぐそばに住んでいるから、大丈夫だとは思ったけれど、でもやっぱり。それでね、フロスティーを遣わしていただくよう、神様にお願いしたのよ。あのこも、わきまえていて、子供たちにはなかなか姿を見せようとしなかった。貴方にだけ、忠実にあろうと決めていたみたい。「俺としか、かかわり合いになりたくないんだよ」って、サム、貴方ちょっと嬉しそうだったわね。あのこが、貴方の歩行器に前足を掛けて立ち上がったとき、二人でワルツを踊っているようだった。わたし、ちょっと羨ましくなっちゃった。

 マディソンの地へ、フロスティーを連れて行ってくれてありがとう。牧草地の奥、松の木陰、川のほとり。花崗岩の上を流れるサラサラとした水、匂いたつ苔。貴方がプロポーズしてくれた日のそのままだった。もう一度、あそこへ行きたかったのよ。貴方もそう思っていてくれたのね、とても嬉しい、とても、とても。ねえわたし、貴方が育てる木がとても好きだったのよ。貴方はそれで、この南部でも指折りの人物になったけれど、でもそんなことより、大地にどっしりと根の生えたようなところが大好きだったの。足が悪いっていうのに、ついこの間まで、あのおんぼろトラックで、苗木畑の手入れに行っていたわね。子供たちは心配そうだった、でもわたし、応援していたのよ。

 ねえサム、フロスティーの中に、わたしがいると思ったのね。貴方は泣きながらあのこを抱きしめて、目のなかを探していた。わたしはずっと、あのこの目を通して、貴方を見ていた。日記をつけるとき、一緒に読んでいた。でもね、こっちへ来たら、もう日記は書かなくていい、全部わたしが聞いてあげるから。わたしたち、きっとまだまだたくさん話すことがあるわ。これからは、いつまでだってワルツを踊っていられるの。わたしたちもう、お爺さんとお婆さんじゃないのよ、形なんてないの、でも、何もかもを感じていられるの。

 神のご加護のあらんことを。



☆本稿は、わたしの個人的な解釈によります。あなたは、どのようにこの本を読まれるでしょうか☆


『白い犬とワルツを』新潮文庫
原題:To dance with white dog
著者:テリー・ケイ(Terry Kay)
訳者:佐藤隆信
出版社:新潮社
出版年:1998年






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