2023年のマンガ読み⑤
医龍
医療漫画。天才的な外科医である朝田が主人公かと思いきや、結構な群像劇として作られている。医療の腐敗もテーマだったようで、序盤はページが暗転して医療の暗部を突きつける構成をとっていた。また医局の腐敗の象徴である野口という妖怪みたいな教授もいる。
だがそれ以上に、医局をより良いものにしようとする加藤、トラウマを乗り越えようとする麻酔医の荒瀬、医療者としての自己像を探しつづける伊集院といったキャラクターたちの善くあろうとするエネルギーが最後は風穴を開ける作りになっていた。画力も滅茶苦茶に高く、特に伊集院の成長物語として面白い。
殺し屋は今日もBBAを殺せない
殺し屋がメッチャ強いババアに返り討ちにされ続けるという漫画。絵がうまく、キャラの表情が豊かで愛嬌もある。ギャグもなかなか。
終盤、シリアスなストーリーに展開したが、そちらではちょっと物足りなさも感じた。
『雷雷雷』という新連載が始まっている。それはシリアスなところもありそうで、設定としては怪獣八号あたりと似たところもあってと厳しい要素もあるのだが、ギャグや表情の豊かさからくる愛嬌のようなものは健在である。うまく行ってほしい連載だ。
無職の学校 職業訓練校での200日間
題材がいい。序盤の時点では、登場人物もみな無職相応という感じの思考回路を持っているのだが、それぞれの物語を生き、それぞれ成長していく。
姉のためのとりあえずの就職を辞退し、自分が納得して生きていくための進路をつかみ取る展開は良かった。
呪術廻戦
これは単発記事を書こう
それでも歩は寄せてくる
「からかい上手の高木さん」の山本崇一朗によるラブコメ。
少年誌系のラブコメでは多くの場合、相手に好意を抱いてからカップルの成立までを描いているだろう。両想いが成立するまでの期間は確かに気持ちが盛り上がるものだし、人間を奇行に走らせるものもある。王道的な題材だ。
しかし、恋愛成就までの道のりだけで連載をずっと続けなくてはならない都合上、恋心を成就させるためのムーブというのが乏しいことも多いのではないか。つかず離れずでジリジリとしかにじり寄らない恋愛というのは、あまり気持ちのいいものではない。小さな勇気をもって距離を一歩縮めるとか、極大の勇気を振り絞って思いを打ち明けることなどに恋愛の本質的な良さがあるような気がしているのだ。
さて、本作は高校生のカップルが時間をかけて成立するまでの話である。だが面白いことに、先に挙げた「つかず離れず」の形になっていない。歩はうるしへの好意をほとんど隠していないし、恋愛の成就に全力で取り組み続けている。だからラブコメ特有のじれったさがないのである。
そんな構図が成立しているのは、歩が自分に課したルールがあるためだ。「うるし先輩に将棋で勝てたら告白する」
この縛りがあるというだけで、好意を持っているのに一向に告白しないことが見事に正当化されている。むしろ、歩が真剣に将棋に取り組むことは、恋愛の成就に向けて真摯に努力していることになる。そんな上手い構図を作ることで楽しく読めてしまったのだった。
接客無双
接客をおこなうバトルマンガ。よくわからないバトルマンガとしてネタが尽きるまえに完全燃焼し、キレイに終わった。この作品については以下の記事にまとめてある。
宇宙兄弟
宇宙モノだが、それ以上にお仕事もの。難波ムッタの人物像がよく、特に閉鎖環境テストは最高に面白かった。
ムッタが宇宙に出てからはアクシデントの連続で、そのために閉鎖環境テストの仲間たちをはじめ全員集合の演出がなされる。宇宙でのミッションって本来は地味な絵になることも多いんじゃないかと思うけど、一方でせっかくのマンガなんだから都合のいい展開で盛り上げていいのだとも思う。
編集者の佐渡島がポッドキャスト出演した回を聴いてしまい、「もっとヒビトを追い込めない?」とか提案していると聞いて、ちょっとイヤになったな。編集の顔がチラつくのは嫌で、聴くんじゃなかった。
BLUE GIANT
「岳」の石塚真一によるジャズマンガ。主人公のキャラクター、演奏シーンの迫力、登場人物の魅力などが高いレベルで揃っている。
主人公の大は高校生のときジャズに衝撃を受け、以降ひたすらサックスを吹き続ける。大はサックスの才能だけじゃなくて、人物としてかなり図抜けた存在だ。自分の可能性を理屈を超えて確信しているし、そこそこ傷つきそうな挫折でも「屁でもねえや」と受けとめ、前進を止めない。
そもそもジャズというのは全人格をさらけだし、自らの感情を表現するようなところがある。その意味で、大の超然とした人格とサックスの才能は同じものなのかもしれない。
東京編では、人間味あふれるメンバーとユニットを組んだことで、物語がぐっと面白くなっていく。だが、最後の展開は受け止めることが中々難しかった。
一つ言えるのは、大はJASSに収まる器ではなかったということだ。だが、このままだとJASSのサクセスストーリーから大は脱出できなくなる。だから何かしら離脱のきっかけは必要だったのだろう。
だが、やっぱり雪祈のことを考えると釈然としない。彼は大ほどの器ではなかったにせよ、努力し、挫折し、向き合い、成長していた。こういう人物に理不尽が襲い掛かってしまってはつり合いがとれない、気持ち悪いという思いがある。まあ『岳』の作者だからなぁ。
砂時計
「母が自殺」という傷を抱えながら生きる主人公、杏。少女漫画らしい恋愛模様に、母親の自殺という傷が常に見え隠れし、遠距離恋愛を維持できなかったり、重い女になってしまったり、自分が嫌になって相手を遠ざけてしまったり。
最終的に、杏は母親と同じく自殺を試みる。だが、そこで多くの人が自分を気にかけてくれていたことを自覚し、生きたいと思う。自殺未遂までやってようやく、母親の影を振り切った形だ。そして奇跡的に、初恋の相手と再び結ばれる。しかし、関係性は全く違うものだ。「母親の自殺で心の傷を負った自分を守ってもらう」というもたれかかりの関係ではなく、むしろ自分が大悟を守ってやる。そう言えるところまで杏はふっきれることができたのだった。
2003年に連載が始まっているが、母親の心の傷が連鎖してしまい苦しむ娘というモチーフはむしろ現代によく馴染むものだった。最終的な着地も好き。とはいえ、道中の恋愛模様を負っていく過程は重たかったり、じれったい想いもあった。
高校アフロ田中
アフロ田中シリーズの記念すべき第1作。しかしつまらない。かなりつまらない。稲中卓球部のアシをしていたらしいが、特に序盤はその影響が色濃い。後半から少し、アフロ田中らしい哲学っぽい所というか、「そうそう、こういう思考回路あるよね!」という感じのギャグが散見されるようになるのだが…
そして何より、倫理基準が相当に低い。誰かに迷惑をかけるような窃盗とか暴力とかがサックリと実行され、とくに因果応報を示すような演出もなく終わるような回が多い。ギャグマンガだからとか、時代が違うとかそういうレベルじゃない不快感があった。