よくわからないバトルマンガ3選

マンガは日々進歩している。バトルマンガとて例外ではない。

『ドラゴンボール』はシンプルだった。戦闘力がデカい方が勝つ。こんなわかりやすい話はない。基本形と言っていいだろう。

『ジョジョの奇妙な冒険』の戦闘は「能力バトル」に分類される。こちらは戦闘力ではなく、「持っている能力をどのように駆使するか」という頭脳戦が見どころだ。

『ハンターハンター』はいいとこどりと言えるかもしれない。オーラの多寡も重要だし、互いの能力を活かした頭脳戦も見どころである。それどころか「自分の能力をどのように形成し、成長させていくか」という部分の戦略性まで描いてみせる。きわめて奥行きの深いバトルマンガであり、一つの到達点と言えるだろう。


さて、バトルマンガが進歩を遂げていった結果、若きマンガ家たちは壁にぶつかったのかもしれない。新たにバトルマンガを描こうにも、もはや読者の眼が肥えきっている。シンプルなバトルを描けばドラゴンボールと比較され、能力バトルを描けばジョジョやハンターハンターと比較される。

何か新しい要素が盛り込まれていない限り、一部の天才以外はとても生き残れない。かくしてバトルマンガの世界にあらたな潮流が持ち込まれる。変化球である。

web漫画黎明期の名作、『オーシャンまなぶ』では「心のダメージが肉体のダメージとなる島」を舞台に、言葉で相手の心をえぐりあうウィルコンバットというバトルを生み出した。

相手の容姿をなじって精神的ダメージを狙うようでは単純すぎる。慎重に、付け込まれないように言葉を交わしながら相手の真のコンプレックスを見抜き、痛烈な一撃を食らわせるのだ。緊張感のある頭脳戦なのに、やっていることは口喧嘩というギャップが新鮮で夢中になって呼んでいた。(なお未完)

頭脳戦の無駄遣い

さらにマンガの可能性は妙な方向に広がり、自分が勝手に頭脳戦の無駄遣いと呼ぶジャンルが誕生した。『レジチョイサーよしえ』がその典型だ。

スーパーで買い物をする際、もっとも早くに会計してもらえそうなレジを見つけ、だれよりも早くそこに並ぶ。そんな戦いを人知れず繰り広げているのがレジチョイサーだ。

レジチョイスで勝つには何が必要だろうか。まずはレジ打ちの技量を見抜くこと、並んでいる客が持つ商品の量や種類を把握すること、客の年齢や服装から決済方法を推測することなど…意外にも高度な読みが要求される。対戦相手とのレジの選びあいは、頭脳戦としての極限の緊張感を持って演出される。

だが、冷静に考えれば、その勝敗はかなりどうでもいい。

頭脳戦としての緊張感と、その目的のどうでもよさのギャップがジワジワくるのである。

よくわからないバトルマンガ3選

ようやく本題である。

最近はアプリでいろんな漫画を読んでいるのだが、さらにぶっとんだバトルマンガに複数出会うことができた。それらをまとめて紹介したい。

遥かなるマナーバトル

この世はマナーという見えない法に支配されたディストピアだ。だれもが作られた不合理なマナーに縛られ生きている。

第1話 拝啓より

名刺の受け取り方、渡し方。料理の食べ方。メールの書き方。結婚式のドレスコード。ノックの回数…

様々な場面で、私たちはマナーに沿った行動を求められる。マナーに違反すれば失望され、叱られ、社会的評価が理不尽に低下させられる。相手がマナーにこだわっているようならなおさらだ。

主人公、笹木真那の父親は「取引中にお茶を飲む」というマナー違反(?)によって大事な取引に失敗し、それをきっかけに自殺にまで追い込まれた。

しかし、そもそもマナーのほとんどは根拠がよくわからないものだ。笹木真那はマナーに呪われた世界を変えるため、あえてマナーバトラーになることを決意する。

マナーバトルとは、対戦相手と特定の場面を演じながら、互いのマナー違反を指摘しあうというバトルである。手痛い指摘をうけると身体に電流が流れ、ダメージが蓄積していく。

笹木はこのくだらないバトルの世界に身を投じ、「名刺を渡すときに指が名前にかかっているのはマナー違反」などと意味不明な指摘で電流を流されながら、果敢に戦っていくのである。

だが笹木には芯がある。マナーの知識量と実践力以上に、「本当に大事なのは目の前の相手を尊重するということ」だ。

…と大真面目に語って見せたが、めちゃくちゃシュールなギャグ漫画である。真剣に戦えば戦うほど、マナーというもののバカバカしさが浮き彫りになっていく。

黎明期のwebマンガを思わせるような読み味で、これがマンガワンというアプリで連載されていることを感慨深く思う。というのもマンガワンの前身である裏サンデーは、それこそ黎明期のweb漫画界の才能を集めて始まったものだったからだ。特に、先にあげた『オーシャンまなぶ』の影響は濃密に感じられる。

「あの頃のweb漫画」が好きだった人、twitterのマナー講師ネタが好物な人に是非オススメしたい作品である。

接客無双

「あれ…?なんで私がテーブルに…?コップに水を注いで…?あれ?今私が接客をしていたはず。いつから接客をされていた…ッ?」

table1より

次に紹介するバトルテーマは接客である。

バトルマンガの一つの潮流として、肉体的ダメージの与えあいから精神的ダメージの与えあいへのシフトがあったわけだが、そんな次元の話ではない。

相手を精神的、肉体的に回復させておいて、でもバトルマンガなのである。なんでバトルとして成立しているのかよくわからないのだが、読んでみると確かに接客でバトルしている。

接客の天才であるナスノスケは、シャッター街の飲食店に恩義をうけ、その立て直しに協力しようとする。だが商店街をつぶしてショッピングモールを立てようとする勢力があり、そこからプロのクレーマーが続々と送り込まれてくる。このままだと商店街ごと潰されてしまう…

だがナスノスケは人間離れした接客力で、プロのクレーマーすら満足させてみせる。

…ここまではギリギリ理解できる。問題はここからで、現在は8名による接客トーナメントが行われている。互いに接客しあうことで、意味不明さは明らかに加速している。

出場者は当然のように領域展開を行う。コンビニ店員は舞台をコンビニに変え、CAは舞台を機内に変える。

挙句の果てに「客と接触するのが接客。鉄球で接触して殺す」みたいな物騒で意味不明なキャラも混ざっている。

接客という目の付け所がうまいのか、正直よくわからない。しかし、とにかくギャグマンガ家としての実力があるのでメチャクチャおもしろいのだ。何故かずっとおもしろさのボルテージが落ちず、目が離せないマンガだ。

中高一貫!!笹塚高校コスメ部!!

「キャプテン。尻測ってもらっていいですか?」
「82.8cm。また引き締まったんじゃねーか?」
「あざっす」

#1より

最後に紹介するのは、異性を自分に惚れさせるための駆け引きをバトルと捉えた作品だ。恋愛をバトルと捉えるのであれば、自分磨きは特訓ということになる。

笹塚高校コスメ部の面々は日々自分を磨いていく。スタイルを良くするための走り込み、メイクから、食事の可愛いらしい食べ方まで。

やっていることはモテの追求なのだが、その真摯さとストイックさは甲子園を目指す高校球児を彷彿とさせる。彼女たちが真摯であるほど何かしらの面白さが漂ってくるのだからすごい。

そしてバトル(デート)である。相手のイケメンが頬杖で攻撃してくれば、超高校級の鎖骨をアピールして反撃する。互いの持つ武器をぶつけ合い、相手を先に惚れさせるのだ。

特に5話から繰り広げられる、国宝級イケメン「マガト」との部をあげたバトルはとんでもない名勝負である。少しでも興味があったら是非見て欲しい。

さらに、コスメ部のやっていることを「ルッキズム」として批判するキャラが現れ、謎に社会派な一面が出てくる。二重に目が離せない。

「人は好きになると何でもしたくなる。好かれれば、人を思い通りにできる。どちらしかないなら、あたしは好かれる方を選ぶ」

#2 巻きつけろ!スパゲッティ!より



以上、最近とても楽しんでいる3作品を紹介した。なんか打ち切られそうな心配のある作品もあるので、興味があれば覗いてみて欲しい。

※なお、バトルマンガの歴史という感じで文章を展開してみたが、かなりテキトーな個人の見解である。

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