2023年のマンガ読み③

その① その②


イチケイのカラス

「裁判官」のお仕事モノ。弁護士モノはたくさんあり、検事モノであればドラマの『HERO』があるけど、裁判官は珍しかった。

主人公は裁判官という職務を事務的にこなそうとする若者。だが彼の異動先には、全く異なる仕事観を持つ上司たちがいた。特にみちおの人物像や、みちおのファンクラブの存在などかなり魅力的であり、作品としてやりたいこともハッキリしていて、とても期待感ある作品だった。

惜しむらくは、打ち切りなのか主人公の成長していく姿がほとんど見れない段階で終わってしまったことだった。

食糧人類

人間が飼育され、食糧として宇宙人に供給されているという設定のサスペンス。スリルとグロぐらいしかウリになる要素がないし、主人公はほとんどただの目撃者だった。

生物学的に少し凝っているところはあるけど、無理筋な設定もあり、魅力的ではなかった。「人間が家畜に対して行っていることを、人間がされている」という光景にはテーマ性も感じられたのだが、結局そこが深められたりするわけでもなし。

キャラの魅力、先が気になる展開、物語としてのクオリティの3項目でいうと、「展開」だけに力が入っていた印象で、先が気になるとは何度も思ったが、読み終わった後に何も残らなかった。

フラジャイル(最新話まで)

圧倒的に面白い医療マンガ。作画もキャラクターも物語も良すぎる。

医療の原理は生命科学に大きくよっているが、医療の理想を実行することは難しい。臨床では一人の人間としての患者と向き合うことも極めて重要だし、多忙な中で器用に妥協することが求められたりもするからだ。

病理医は自然科学的な観点での最終防衛ラインと言える。優れた病理医である岸は、だからこそ自然科学の目線で診断の最終確定に関わり、対人関係や多忙の中の妥協に対して厳しく異を唱える。当然、臨床の人間には煙たがられもするのだが、命を救うという観点でみれば岸ほど優れた医者はいないわけだ。

病理医というポジションを新たに知ることの知的な喜びもあるし、宮崎や森井くんといった病理組の面々は魅力的だ。宮崎の成長物語は感動的で、彼女が病理医の正規の資格を取った話は最終回のようだった。(実際、最終回として構想されていたのではないか。)

また医療モノといえば腐敗”が描かれることも多い。同じタイミングで医龍も読んでいたのだが、アチラの腐敗はとてもわかりやすい。金銭欲や出世欲、それと保身。そんな性質が腐敗のもとになっている。

一方でフラジャイルにおいては、新薬の利用を急ぐ気持ちとか、目の前の患者を助けたいという想いとかが腐敗・倫理違反の駆動力になっており、人間ドラマとして一段深く、リアリティのあるものとして感じられた。

推しの子(最新話まで)

話題作であり、ジャンプ+で無料で読めるということで読んでみた。意外と面白い。

主人公であるアクアは医者からの転生ということで、同年代よりはかなり高知能ということでいいだろう。それにしてもルルーシュのような知的活躍ぶりで、だったら生前の医者としての姿をもっと有能に描いてもらったほうが納得感があったかもしれない。

復讐劇という形で話を引っ張っており、連載はおそらく最終編に入っていくのだろうが、復習が成功するか否かよりも、復讐に挑むことを通じてアクアとルビーが何を見出すのかに関心がある。復讐というけど、対象を「殺す」のはない。でもある程度の罰を与えるだろうな。何しろ犯人のやってきたことがエグすぎるので、かなり苦しませなくてはなつり合いが取れないはずだ。

だが、復讐劇というのは、それを通じて復讐者がどう変わるのかに本質がある。ルビーはきっと、「アイは復讐して欲しいんじゃなくて、自分に幸せになってほしかったんだ」ということに気づいて、純粋な気持ちでアイドル活動に戻るのだろう。

アクアはどうなるか。復讐心という霧が晴れたあと、アクアは何を思うだろう。キーマンは重曹ちゃんだ。

本作のテーマには「嘘」があるだろう。そして、復習を遂げたとき、アクアに嘘は必要なくなるはずだ。自分の想いを直視し、それを表現することが許されるようになる。目の前には瞳をうるませた重曹ちゃんがいて… ここまで妄想した。

片喰と黄金

ジャガイモ疫病によるアイルランドの大飢饉。牧場主の跡継ぎとして育ったアメリアは飢えた孤児となり、アメリカのゴールドラッシュで一発逆転を狙う。そんな冒険譚。

どん底でも明るく、強い意志を持つアメリアがキャラクターとして魅力的で、他のキャラクターも内面まで丁寧に描かれている。加えて開拓時代のアメリカが描写されていることも勉強になり、一読の価値があった。

ウルトラジャンプで連載するも、26話で打ち切り。そこからwebアプリに移籍して連載するも、カリフォルニアに到着した直後に小さな砂金を拾ったシーンで終わってしまう。ジョン万次郎の伏線など、多くの人物のサブプロットが曖昧に終わってもいるし、打ち切りとみて間違いないだろう。

最終話、アメリアは「自分の欲しかったものは黄金そのものではなく、夢を追い求める道中の中にあった」と知る。そんな結末には、連載が打ち切りとはなったものの、一部から強い支持を受、雑誌を変えて書き続けられたことへの色々な思いがこもっているようにも思われた。

子どもはわかってあげない

これは単発記事を書いた。

税金で買った本

図書館を舞台にしたお仕事もの。キャラクターも良くできているし、クソ客によるフラストレーションも、この仕事のやりがいも良く描写されている。

蟲師(再読)

蟲とは生命になる手前の、生命エネルギーそのもののような存在群。一部の人には見える。人々は時に蟲に翻弄され、超常現象のような影響に見舞われていく。蟲師のギンコは、そんな蟲に由来する現象に出会った人たちを助けたり、見守ったりする。基本的にはおせっかいな善人だが、自然界の必然に対してクレバーにお手上げするようなところもある。

日本のひなびた村の暮らし、人間模様はよくできており、蟲を通じて描写される人間ドラマも日本人らしくて良かった。命のあふれる鬱蒼とした自然の描写もいい。日本に憧れる外国人がみたら心をガッツリ掴まれるのでは。

蟲には様々な生態があるのだが、多くは実在の菌や寄生虫を彷彿とさせるような性質を持っている。目的を持たない生命エネルギーそのものではあるが、それでも増殖の効率がいいものがその性質を保存して残っているという、進化論じみた背景も感じられて面白い。

アニメが圧巻の出来で、虹の話で心をわしづかみにされたのだった。自分は基本的にはアニメよりマンガの方が好きで、原作アリのアニメが流行っていればマンガに手を伸ばす。それでも蟲師はアニメをオススメしたい。

水は海に向かって流れる

『子どもはわかってあげない』で田島列島にハマってしまった。

辛い記憶から「恋愛は自分の人生に必要ない」というスタンスを取り」、世捨て人のように生きている千紗。そんな千紗に片思いをした高校生の直達。

取り付く島もない千紗に対し、直達は果敢に懐に飛び込んでいく。この物語は、辛い過去にとらわれ続けた女性を捨て身で解放しようとする、真っすぐな青年の話なのだろう。それが最後に報われて、いいものをみたなあという感じ。

ごあいさつ

田島列島の短編集
小さな問題があって、ささやかな動きがあってという感じ。恋愛に決着がついたりもしない。例えば表題作のごあいさつは、姉が不倫でご迷惑をかけている奥さんが家にやってきて、妹が対応するという話。結局妹は、奥さんに好感を持って姉が逃げ回れないようにする。そこまでの話。

官僚アバンチュールは、恋してしまった女性は、色々と痛いツッコミがきても官僚答弁のようないいわけで聞き流してしまう。周りのいうことを聞かないという情景を描いている。概ね、そのネタ一本。

短編で出来ることは、面白い人間風景のワンイシューなのだと言わんばかりだが、そのおかげで短いページ数でも詰め込み感がなく、田島列島らしい空気感は健在だった。

特に面白かったのは「おっぱいありがとう」。主人公の坂下がふと、「女は一生女のおっぱいを吸えない」と気づき、宮本さんにお願いをするという話。宮本さんはいろんな人の頼み事を聞いている人で、他にも彼氏と別れたがっている女性の頼みを聴いて、その彼氏の浮気相手となり、別れる口実を作ったりする。

「あのね私がやってることはね 世の中をくるくる回すってコトなのよ いろんなものが均等になるように」

これは深みのある言葉だなぁ。

自分の解釈では、停滞しているところを見つけたら、動き出すようにそっと押すという感じだな。終わりかけなのに終わらない恋愛について、手段はどうあれ終わらせてあげれば、それぞれは新しい人生を生き始める。おっぱいに囚われている女におっぱいを吸わせてやれば、その女も次のことに集中できる。そんな感じ。募金とかわかりやすいことじゃなくて、そういう一日一善もあるんだな。

間宮さんといっしょ

投稿トーナメントで異彩を放っていたクレイジーサイコレズ作品。描きたいことやゴールが不明で、愛のために自殺するというスタートからついていけない。

ササラと間宮の異常性を描き出すために「不器用で普通になろうとする女の子」が半ば主人公になってしまう。もう理屈じゃなくてその世界に沈み込んで楽しみたい、楽しめる人のためのもので興味本位でみてもしょーがない。この作品を測れるモノサシを自分が持っていなかったと謙虚になるべき。


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