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『早春物語』(澤井信一郎)ネタバレあり
『早春物語』(1985)は、角川春樹が手掛けた一連のアイドル映画の一つです。原作は赤川次郎。
U-NEXTで、実に久しぶりに観たのですが、原田知世の相手役である林隆三の、敢えて言うと「男の悲哀」にやられてしまいました。
原田知世(瞳)が、とにかくクソ生意気な女子高生で、友達にも親(田中邦衛)にも親の再婚相手(由紀さおり)にも、たまたま知り合った林隆三(梶川)にもやたらと食ってかかる。梶川はやんわりとかわしつつ相手をしてあげているのですが、彼女の行動力に気持を動かされて、ついには自分も新しい道へと進む決断をするという、そんな話です。
アイドル映画だからという意味合いも大きいのですが、原田知世の恰好がお洒落で。(相応に時代は感じますが)
大人っぽい恰好が多いのですが、やはり、亡母の墓参りの時のようなワンピースとか、梶川と出会った時のストライプのスカートの方が似合ってますね。まあ、女子大生だと年齢を偽っているので梶川と会う時は特にお洒落しているということなんでしょうけど、ごくごく普通の家庭の女子高生の恰好ではない。
それはともかく、林隆三です。
彼は仕事で失敗したことになっているけど、カラオケで管を巻いて部長に食ってかかってましたからね。自分のミスというより上司が病気で退社せざるを得なくなり派閥争いから脱落、その巻き添えを食って、疎まれていた梶川は本社から追いやられるらしい。身につまされる話です。
原田知世には何の感情移入も出来ないのに、梶川にはやたらと同情してしまうのは、こっちも年取ったということなんでしょうね。
瞳は、母の昔の写真を見ていて、梶川が一緒に写っているのを発見する。そして、梶川と母が付き合っていたことを知ります。
梶川は、瞳から「あたしのお母さんを捨てたのね」と詰られるのですが、流石に自分の母親と付き合っていたのはショックで同情に値するにしても、大学時代の彼女と就職してから別れるなんてあまりによくある話ですからね、それで責められてもなあという気がします。何か酷い仕打ちをして別れたなら、話はまた別ですけど。
それにしても、この後も延々と繰り返される中年男性と若い女の子の恋愛話。
鎌倉の自宅に上司を見舞った帰りにたまたま再会してしまったという設定で、下心を偶然のときめきという話にすり替えてますね。また、本人が二十歳と言っているのでOKでしょう、という。
それから、梶川は、瞳が職業を尋ねると「商社で鉄を扱っている」と答えるのですが、瞳は「すごい。最先端って感じじゃない」と言うのですが、鉄が最先端か。これも80年代という時代を感じます。
梶川は「鉄は鉄でも屑鉄だよ」と言い、会社の規模からして、そんな訳でもないと思うのですが、この時点で出世の道が閉ざされている梶川からすれば、この自虐も、案外嘘でもないのでしょうね
とにかく、林隆三が悲しすぎるのです、この映画。
ところで、こちらのロケ地探訪の記録を拝見すると、さすが鎌倉、当時の雰囲気がそのままに残っています。
原田知世は、ある寺院(上記ブログによれば来迎寺というらしい)で写真展用の写真を撮影しているのですが、林隆三が駐めた車が邪魔で、桜が思うような構図で撮れない。それで車を動かしてもらうのが二人の最初の出会となる。しかし、折角車をどかしてもらったのに、子供が桜に登ってしまって、叱られていて、なんだかコントみたいになっている。
林隆三は原田知世に「写真撮ったら? ああいうのを『春』って言うんじゃないの?」と言う。彼女は「そういうことかなあ。イマイチね」と訝しげですが、結局、最後には、その写真を写真展に出品している。ああいう伏線の張り方はいいですね。
あの雰囲気たっぷりだった喫茶店など、東京の方のロケ地はすっかり様変わりしているのではないかと思われます。
ラストシーンは、瞳が同級生(仙道敦子)から「(彼氏と)ついに経験しちゃった」と告白されて「経験だけじゃ女になれないわよ」と言い「なによそれ」と反発されると「あたし、過去のある女になったのよ」と言い放つのですが、これもまた時代というか。梶川はこれから大変だろうに「過去のある女になったのよ」という台詞がなんとも陳腐で呑気で。
また、林隆三といえば、この映画の直前に放映されていた『真夜中の匂い』というドラマが、林隆三主演で、これもまた女子大生が大人の男に惚れるという話なのですが、忘れられない。子供だった私にも、ピアニスト役の林隆三はとてもカッコよく、女子大生役の中村久美はとても魅力的に見えました。
また見てみたい。もうなかなか見るのは困難なようですが。