食物アレルギー 食事療法食の種類について
基礎編
アミノ酸食って?
低分子プロテインやz/dって?
セレクトプロテインやd/dって?
食物アレルギーの子用のご飯の考え方は『アレルゲンを避ける』です。
アレルゲンの避け方はいくつかあります。
①アミノ酸食
②加水分解たんぱく食
③新奇たんぱく食
このそれぞれについて、今回は説明できるようになりましょう。
手作りご飯ではどのような考え方をするかも、解説します。
アレルギーを理解する上で必要な基礎知識
アレルギーは免疫学のお話です。
免疫学は特に日進月歩で、未だにはっきりとは解明されていない部分も多いですが、ざっくり解説します。
■免疫とは
体内に侵入した細菌やウイルスなどを異物と認識し攻撃すること。
感染から体を守るために必要な、体の防御機構のことです。
■免疫に関与する細胞や物質
抗体、リンパ球などの白血球、肥満細胞、マクロファージなど
■抗体とは
特定の異物にある抗原に特異的に結合し、その異物を体から除去する分子のことです。
抗体は免疫グロブリンというタンパク質です。
異物が体内に入るとその異物にある抗原と特異的に結合する抗体を作り、身体から排除するための機構が働きます。
■アレルギー反応(過敏反応)とは
本来は無害な物質に対して免疫が過剰に反応してしまうことを指します。
無害な環境や食物などを抗原として認識してしまいます。
この時の抗原を『アレルゲン』といい、この反応をアレルギー反応と言います。
食物アレルギーの子においては、食事中の栄養素のうちタンパク質が『アレルゲン』となることがほとんどです。
脂質や炭水化物、ビタミン、ミネラルなどがアレルギーの原因となった報告はあまりありません。
なぜタンパク質が『アレルゲン』になるのかは、いまだにはっきりとは解明されていないそうです。
■アレルギーのタイプ分け
アレルギーにはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型があります。
Ⅰ型 肥満細胞、IgEが関与 即時型
Ⅱ型 補体が関わる
Ⅲ型 免疫複合体が関わる
Ⅳ型 リンパ球による反応 遅延型
上記キーワードを理解すれば、アレルギーに関する理解がスムーズになりますので、是非知っておいてください。
ここからワンちゃんのアレルギー性皮膚疾患のお話に入っていきます。
(なるべく簡潔にするため、今日はワンちゃんに限ってのお話をさせて頂きます)
■アレルギーの主な原因は
環境中のアレルゲンと食事中のアレルゲンに大別されます。
環境中のアレルゲン:
花粉・ハウスダストマイトなどに過敏に反応することによる皮膚炎(犬アトピー性皮膚炎)を引き起こす。
食事中のアレルゲン:
食物中アレルゲンに反応して起こるアレルギーが食物アレルギーです。
犬で確認されているアレルゲンの圧倒的多数はタンパク質
牛肉・乳製品・鶏肉などが多いが、どのような食事性タンパクでもアレルゲンとなる可能性はあります。タンパク質は構造が複雑で分子量が大きくアレルゲンとして認識されやすいと考えられています。
疫学的には食物アレルギーと犬アトピー性皮膚炎の混合型が多いです
■食物有害反応という用語は免疫学的な食物アレルギー、食物反応性腸症、食物不耐症(過敏症)を包括する用語で、実際の臨床現場では、食物アレルギーは非免疫介在性の食物有害反応と区別することは難しいとも言われています。
環境性のアレルゲンは減らす努力はできてもゼロにはできないので、「食物アレルギー」、「食物アレルギーと環境性のアレルギー混合型」の子は『食物アレルギーに配慮した食事療法』を行う必要があります。
お口から入る物はコントロールすることができるので、最低限口からアレルゲンとなるものが入らないようにする、という考え方です。
■犬のアレルギー性皮膚疾患
犬のアレルギー性皮膚疾患には、Ⅰ型 ・ Ⅳ型 が関与していると考えられています。
といっても独立した反応だけではなく、複雑に相互に関連した炎症反応を引き起こすと考えられています。
食事アレルギーの食事管理の際、Ⅰ型過敏症、Ⅳ型過敏症に配慮する必要があります。
■Ⅰ型過敏症は肥満細胞の表面にあるIgEが、抗体(タンパク質)に結合して架橋を形成し、ヒスタミンを脱顆粒することで炎症反応を起こします。
これは抗原の摂取からすぐに反応が現れるため「即時型過敏症」と呼ばれます。
■Ⅳ型過敏症は抗原提示細胞がリンパ球に抗原提示し、リンパ球の増殖を経てリンパ球が局所に移動し、サイトカインにより炎症反応が引き起こされます。
反応には2~3日以上かかるので「遅延型過敏症」と呼ばれます。
【これまでの基礎知識を踏まえ、冒頭の①~③の療法食の位置づけ】
ではいよいよそれぞれの食事管理の考え方を解説していきます。
①アミノ酸食
"理論上は"Ⅰ型過敏症もⅣ型過敏症も反応しないとされている、タンパク質をアミノ酸レベルまで分解した原材料で製造されている。
②加水分解タンパク食
Ⅰ型過敏症を回避できるたんぱく質源で製造されているフード。
大きなタンパク質の立体構造に架橋して初めてⅠ型の反応は起こるので、タンパク質を細かく分解して(加水分解)摂取すれば回避できるという考え方をされます。
RCでは『低分子プロテイン』、Hill'sでは『z/d』がこれに該当
③新奇たんぱく食
出会ったことがないたんぱく質源を使用するご飯。
初めて食べる食材のタンパク質は、身体が「抗原:アレルゲン」としてまだ認識していないはずという考え方。
RCでは『セレクトプロテイン』、Hill'sでは『d/d』がこれ
手作りご飯で食物アレルギーの食事療法食レシピを作成する際も、この考え方でレシピ作成を行うことが多いです。
【最後に各療法食の実際の原材料をチェック】
アミノペプチドフォーミュラ 犬
コーンスターチ、加水分解フェザーミール(アミノ酸およびオリゴペプチド)、コプラ油、大豆油、動物性油脂、植物性繊維、チコリー、フラクトオリゴ糖、魚油(オメガ3系不飽和脂肪酸〔EPA+DHA〕源)、マリーゴールドエキス(ルテイン源)、アミノ酸類(L-チロシン、L-リジン、タウリン、DL-メチオニン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン)、ゼオライト、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル)、ミネラル類(K、Cl、Ca、P、Zn、Mg、Mn、Fe、Cu、Se)、ビタミン類(コリン、E、ナイアシン、C、ビオチン、B12、パントテン酸カルシウム、B6、B2、B1、A、葉酸、D3、K3)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリーエキス)
低分子プロテイン犬ドライ
米、加水分解大豆タンパク(消化率90%以上)、動物性油脂、加水分解レバー(鶏、七面鳥)、ビートパルプ、大豆油、魚油(ω3系不飽和脂肪酸(EPA/DHA)源)、フラクトオリゴ糖、ルリチシャ油、マリーゴールドエキス(ルテイン源)、アミノ酸類(DL-メチオニン、L-チロシン、タウリン)、ゼオライト、ミネラル類(Ca、Cl、P、K、Na、Zn、Mg、Mn、Fe、Cu、Se、I)、ビタミン類(コリン、E、ナイアシン、C、パントテン酸カルシウム、ビオチン、B6、B2、B1、A、葉酸、B12、D3)、保存料(ソルビン酸カリウム)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリーエキス)
犬z/d ゼッドディー 小粒 ドライ
コーンスターチ、加水分解チキン、ピーカンナッツ殻パウダー、セルロース、ココナッツ油、亜麻仁、ビートパルプ、大豆油、柑橘類、魚油、クランベリー、ミネラル類(カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、クロライド、マグネシウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、ヨウ素)、乳酸、ビタミン類(B1、B2、B6、B12、C、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、アミノ酸類(タウリン、トリプトファン、メチオニン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物)
セレクトプロテイン 犬ダック&タピオカ ドライ
タピオカ、ダック、植物性繊維、加水分解タンパク(鶏、七面鳥)、動物性油脂、ビートパルプ、魚油(ω3系不飽和脂肪酸(EPA/DHA)源)、サイリウム、大豆油、フラクトオリゴ糖、マリーゴールドエキス(ルテイン源)、アミノ酸類(L-チロシン、DL-メチオニン、タウリン、L-リジン)、ミネラル類(Cl、K、Na、P、Ca、Zn、Mg、Mn、Fe、Cu、Se、I)、ビタミン類(E、コリン、ナイアシン、C、パントテン酸カルシウム、ビオチン、B6、B2、B1 、A、葉酸、B12、D3)、保存料(ソルビン酸カリウム)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリーエキス)
犬d/d ディーディー ダック&ポテト ドライ
ポテト、ポテトスターチ、ダック、ポテト蛋白、植物性油脂、ココナッツ油、セルロース、ポークエキス(加水分解)、魚油、ミネラル類(カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、クロライド、マグネシウム、銅、鉄、マンガン、セレン、亜鉛、ヨウ素)、乳酸、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、アミノ酸類(タウリン、メチオニン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物)
タンパク質がアレルゲンになるとはいえ、実際には魚油やコーンスターチなどにも注意が必要です。
手作りご飯の場合、食物アレルギーの際の食事療法は、極論、単一食材から除去食試験が開始できますが、単一食材では栄養素の不均衡が起こります。
栄養剤にもジャガイモやコーンデンプンなどが使用されている事があるので、それら添加物に配慮しながら栄養剤の併用をしていくことになります。
実践編
手作りご飯を実践されているご家族が、公園お散歩友達の中で「あの人には栄養学の知識で勝てない」と思われる存在になる世界を目指していますので、今回は実践例をご紹介します。
手作り実践者:テヅさん
フード愛好者:フーさん
テヅさんの愛犬ルギちゃんは、食物アレルギーによる皮膚炎に悩まされたことがきっかけで、日頃から手作りご飯を実践しています。
ルギちゃんが食べられるタンパク質源のみを使用してレシピ設計をし、最近ではたくさんの食材を使えるようになってきました。
フーさんの愛犬アレちゃんが食物アレルギーとの診断を受け、動物病院でセレクトプロテインを処方されたところからシーンは始まります。
~ある日の公園での会話~
テヅさん「こんにちは、フーさん。アレちゃん元気そうね!」
フーさん「でもね、最近うんちがゆるくて、アレルギーみたいなの。病院でセレクトプロテインを処方されたの。」
テヅさん「あら、うちの子もセレクトプロテインと似たような事を手作りご飯で実践しているわよ。」
フーさん「え?嘘よ。手作りで食物アレルギーに対応したご飯なんてできっこないでしょ?」
テヅさん「そんなことないわ。食物アレルギーを回避するには、"アレルゲンを避ける"ことが必要で、そのために手作りご飯で食材を最小限のところからスタートして、1つずつ食べられる食材をチェックしていくのよ。
"負荷試験"ともいわれるの。食物アレルギーの場合、除去食試験→負荷試験の繰り返しで、食べられるものをどんどん見つけていくことになるんだけど、考え方の基礎はフードも手作りも同じなのよ。」
フーさん「そうなんだ。うちの子のフード選びはかかりつけの先生にお任せしているから。」
テヅさん「先生を信頼することも大事だけど、日々の微妙な体調変化や食物への反応を敏感に感じ取ってあげられるのは、他でもないご家族自身なのだから、今なんの食材に挑戦していて、どんな反応がでたらこのフードは合わないと判断しなければいけないかなど、ご家族が知っているか知らないかで、治療の成功率は変わってくるものよ。」
フーさん「そうなの。このご飯、食べ始めて4日目ぐらいに少し痒みがでてきたけど、食べ始めた日はなんともなかったから、気のせいかなと思っていたのよ」
テヅさん「あら、4日目っていったらどんぴしゃで遅延型過敏症、つまりⅣ型アレルギーの症状がでちゃってるじゃない。
なんの食材が合わなかったのかしら。何を使ってるフードなの?」
フーさん「セレクトプロテインよ。さっき言ったじゃない」
テヅさん「あら、あなた知らないの?セレクトプロテインって、新奇たんぱく食の事なんだけど、その蛋白源によって複数製品があるのよ。
ロイヤルカナンのセレクトプロテインには、ダック&タピオカ、チキン&ライス、フィッシュ&ポテトなどがあるわよ。ちなみにこれらのたんぱく源があわなかった場合、ヒルズのd/dも新奇たんぱく食よ。
サーモン&ポテトやダック&ポテトなどがあるわよ。」
フーさん「ちょっと待ってね。えーっと(メモを確認)ダック&タピオカみたい。」
テヅさん「(スマホでググる)ダック&タピオカね。えーっと、原材料は・・・タピオカ、ダック、植物性繊維、加水分解タンパク(鶏、七面鳥)、動物性油脂、ビートパルプ、魚油(ω3系不飽和脂肪酸(EPA/DHA)源)、サイリウム、大豆油、フラクトオリゴ糖、マリーゴールドエキス(ルテイン源)、アミノ酸類(L-チロシン、DL-メチオニン、タウリン、L-リジン)、ミネラル類(Cl、K、Na、P、Ca、Zn、Mg、Mn、Fe、Cu、Se、I)、ビタミン類(E、コリン、ナイアシン、C、パントテン酸カルシウム、ビオチン、B6、B2、B1 、A、葉酸、B12、D3)、保存料(ソルビン酸カリウム)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリーエキス)って書いてあるわ。この中で、食物アレルギーの子をもつご家族がチェックしておくべき原材料はどれか分かる?」
フーさん「え、そんなの、原材料まで見なくても、製品名にある通り"ダックとタピオカ"でしょ?」
テヅさん「ちがうのよ。タピオカとダックはもちろんのこと、加水分解たんぱく質の鶏と七面鳥も入っているわね。
加水分解たんぱく質って、抗体による架橋が起こらないから、Ⅰ型の過敏症は発症しないけど、Ⅳ型アレルギーがある子は普通に反応が出る子がいるから注意してね。
さっき言ってたアレちゃんの4日目の痒みは、この加水分解の鶏に対するアレルギーの可能性もぬぐい切れないってことね。
大豆油や魚油も、基本的には”大丈夫"と言われたりするけど、大豆アレルギー、お魚アレルギーの子は気を付けた方がいいわ。それだけだと思う?」
フーさん「それだけチェックすれば大丈夫そうね。」
テヅさん「違うのよ。皮膚やお腹の症状が出る子の中には、フードの酸化した脂質に反応している子もいるのよ。
添加物による影響の子もいるのよ。
まぁこの先は話すと長くなるから、またにしましょう色々なチェック項目があるから、フードで食べられる物を真剣に探す場合は、是非エクセル管理をお勧めするわ。」
フーさん「・・・えくせる?」
テヅさん「大変でしょう?でも安心して!フードって、食物アレルギーに配慮したラインナップは各社複数販売しているから、選択肢はまだまだあるわよ。
ただ、選択肢の中から食べられる物を探していく。消去法のフード選びになっていくわね。
手作りご飯の場合は反対の考え方って思うとイメージしやすくて、食べられるものをどんどん追加で探していく、消去法の対義語があるのか分からないけれどいわゆる"追加法"的な食事探索をしているの。
これは食べられるかしら?って。症状が出た時は可哀想だけど、前向きに頑張っているのよ。フーさんとアレちゃんも頑張ってね!」
フーさん「ありがとう」
みなさんも、アレルギーに詳しくなって、公園フード派連中を論破しよう!
というのは嘘ですが、
手作りご飯を実践しているご家族は、フード派の方よりも栄養学にかなり詳しいご家族が多いように感じます。
さらなる知識を深めて、フードの方たちにも色々教えてあげると、お互い知識を高め合う事ができるのではないでしょうか。
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