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おばあちゃんの接客は難しい ~4年間の接客経験で学んだこと~

僕は大学在学中、とある駅前の飲食店で働いていた。

そこはいわゆるファストフード店で、仕事内容はほぼすべてマニュアル化されていた。

駅前のロータリーに面していることもあり、平日でも土日でもお店は大繁盛。

来るお客さんも様々で、部活帰りの高校生や仕事帰りのサラリーマン、休日には家族連れで来るお客さんもたくさんいた。

そんな中、僕が接客で苦労したのが、おばあちゃんたちだった。

あえて ”たち” と言ったのは、おばあちゃんにもいろんなタイプがあるからだ。以下、簡単に説明しよう。


▼おばあちゃんのタイプ(4種)

①せっかちタイプ
おばあちゃんとは思えないほどせかせかと動く。前のお客さんが立ち去るや否や食い気味に注文してきて、1000円札を乱雑に出した後は時計をちらちら確認することでプレッシャーをかけてくる。口癖は「1分後にバスが発車しちゃうのよ」。

②ゆっくりタイプ
とにかく行動がゆっくり。注文を決めるのも、財布から小銭を出すのも、全身筋肉痛の時の僕くらいゆっくり動く。気が付けば後ろに行列を生み出してくれるので店としてはうれしい客かもしれないが、バイトの僕はそれに何度も絶望させられた。

③温厚タイプ
THE・近所のおばあちゃん。今日の天気の話やこれから会う孫の話など、他愛もない会話を容赦なくしかけてくる。混んでいるときにはやや厄介だが、仕事で疲れているときに来てくれると癒されるのも事実。エコバック持参率が高い。

④募金タイプ
数か月に1度訪れるレアなタイプ。お会計を済ませると、商品を受け取ることなく「お世話様です~」と言ってどこかへ行こうとしてしまう。ここは募金する場所ではない。呼びかけても気づかれず、店を飛び出して追いかけたこともある。


細かく言えばもっとたくさんあるが、おばあちゃんのタイプは大体この4つに集約される。

さて、参った。

ただでさえ普段から忙しいお店なのに、次々と襲い掛かる異なるタイプのおばあちゃんたちを前に、僕のHPは削られ続けた。

しかし、慣れとは恐ろしいものだ。

働き始めて数年、カウンター越しの会話で人間観察を極めた僕は、瞬時に相手のタイプを判断し適切に対応する術を身につけていた。

以下、それぞれのタイプのおばあちゃんに対する僕なりの接客法を紹介しよう。
*試す際には自己責任でお願いします。笑


▼タイプ別おばあちゃん攻略法

①せっかちタイプ
多少マニュアルを無視してでも最小限の接客におさめる。例えば、ポイントカードの確認をすると面倒がられることがほとんどなので、そもそも確認しない。こちらからの発言は疑問形ではなく言い切る形で。「~でよろしいですか?」ではなく、「~しときますね!」と言うことで、相手の確認を取る時間すら省略できる。このタイプのおばあちゃんは細かいことは気にしないので、とにかく最小限の接客を心がける。愛想はほどほどでよい。

②ゆっくりタイプ
相手にしてほしいことを先に伝え、その間に商品の準備を行うことでタイムロスを防ぐ。特にポイントカードを探す時間と小銭を取り出す時間はかなりかかるので、カードの有無を確認することと、金額を伝えることを最優先に行う。そうすれば相手のお会計が済むころには商品の準備ができているので余計な待ち時間を防ぐことができる。ただし、同時に2つのことを求めるのはNGなので、しっかり相手の動きを見ながら声をかける。このタイプのおばあちゃんは耳が遠い場合が多いので、あくまでも接客はゆっくり丁寧に行うことが重要。言葉遣いは丁寧に、体はてきぱきと動かす。

③温厚タイプ
相手の話に耳を傾けつつも、手を止めさせないように意識する。「そうなんですね~!、お会計〇〇円です」という風に、会話の中に接客をくい込ませ、さりげなく相手の行動を促す。お会計中に会話をつなげようとすると相手の手が止まってしまうため、会話を再開するのはお会計が済んでから。これからバスに乗って孫に会いに行くというお客さんには、こちらから丈夫な袋を用意してあげると高確率で喜ばれる。

④募金タイプ
相手の体の重心を注視する。お会計が済んだ後、すぐにひざを曲げる動きが見られたらどこかへ行ってしまう合図だ。すかさず「お箸は何膳ご用意しますか?」などと適当に声をかけ、意識をこちらへ向ける。というのは半分冗談で、正直このタイプのおばあちゃんは対策のしようがない。強いて言うなら、店を飛び出して追いかける脚力を鍛えておくことだろうか。


以上、駅前のファストフード店で数々のおばあちゃんたちをさばいてきた僕が編み出したタイプ別おばあちゃん攻略法を紹介した。

始めはあんなにも苦手だったおばあちゃんの接客も、気づけばゲームの攻略感覚で仕事中のひとつの楽しみになっていた。

≪ もしかして、接客業って楽しい...? ≫

僕は変なところに接客業のやりがいを見出してしまったようだ。


面白おかしく書いてしまったが、まじめな話、この経験で得たスキルはとても大切なものであると思う。

人間観察力と臨機応変な対応力。

接客業に限らず、社会において持っていると有利になる力だ。

目の前にいる人が何を考えていて、自分にどうしてほしいのか。そんなことを常に考えながら行動できるようになれば、周りからの評価は格段に上がると思う。

もちろん、時には肩の力を抜いて自分本位な生き方も忘れずに。

4年間のおばあちゃんとの闘いの日々は、僕にそんなことを教えてくれた。


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