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通りすがりの青春に”キュン”として

コロナ禍に入ってから、運動不足を解消しようと地元を散歩するようになった。もともと歩くことは嫌いではなかったし、ゆっくり地元を歩いてみて初めて気づくこともたくさんあり、大好きな日課として今でも続けている。

少し肌寒さを感じるようになった秋の夕暮れ、近所にある大きな公園をひとりで散歩していた時のこと。よく太ったコーギーを散歩させている女性や、ピチピチの半袖を着てランニングする男性とすれ違う中、私の後ろでは学生らしき男女の声が聞こえていた。

女の子「・・・どういたしまして、の後にスタンプを送ればいいかな?」
男の子「そう、そっちの方がそっけない感じがしなくていいよ」
女の子「じゃあ次の日は学校で特に何もしないで・・・」
男の子「違うよ!そこで話しかけに行くんだよ!」

ふだん散歩中はイヤホンをしているのだが、ふと耳に入ってきたその会話が気になって思わず片耳のイヤホンを外した。

どうやらふたりは友達関係で、学校で恋をしている女の子が、隣を歩く男の子に恋愛相談をしているようだった。

女の子「でもあんまりガツガツ行くのも迷惑じゃない・・・?」
男の子「いいや、男なんておせば簡単に落とせるもんだよ」

恋に悩める女の子と、妙に落ち着きのある男の子。ふたりの掛け合いがなんだか可笑しくて、マスクの中で自然に口角が上がった。

≪もうふたりが付き合っちゃえよ!≫
前を歩く私は、頭の中でお決まりのおせっかいを焼いていた。

ふたりの会話をずっと聞いているのもなんだか悪い気がして、私は外したイヤホンをつけ直したのち、歩くペースを落として道を譲った。

私を追い越していったのは、制服を着たふたりの高校生だった。

その女の子が学校でどんな子に恋をしているのかは知らないけれど、たった今、あなたの隣で真剣に話を聞いてくれている友達がどれだけ大切な存在であるのか、そのことだけは分かっていてほしいな。

通りすがりのふたりの背中を見ながら、22歳の大学生は勝手にもそう思うのであった。


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