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飲食店の実情を踏まえた上でホワイト企業に仕立て上げた事実に驚愕する。『 #売り上げを、減らそう 』中村朱美(佰食屋)出版:ライツ社 @writes_P

世の中、働き方改革だなんだと耳に入ってくるのは、旗印の掛け声だけ。

実際には業務改革のツールを導入したところで、導入しなくても回る仕事だったり、早く帰れるような仕組みにしたとしても帰らなくてもいいと考える社員がいたりと「誰の幸福度を上げるため」に、こんな掛け声をかけているのかと思う。

中でも飲食業界は、ぼくを含めた、我々「客」が足を運ぶ・在籍する限りは相手をしなければならない業態でもあり、ぼくは実家が飲食店を経営していたため、その実態はイヤというほど目にしてきた。

だから、ぼくの職業選択の中から「飲食業」は現場に入る物ではないと認識するにいたり、ぼくは実家の飲食店の後継候補から自ら外れた。

結果、父親が創業した店は2019年12月31日をもって経営権を譲渡し、店の看板自体は残ったものの、自宅兼店舗は他者の手によって運営されることとなった。

飲食店の営業はブラック気質にならざるを得ない

別にそれがよかったとか悪かったと述べるつもりはないし、その意図もない。だけど、飲食業界(特にお酒を提供するお店)では、いかにアルコールを提供できるかどうかによって売上が大きく変わる

ビールなどのアルコールは原価率をコントロールしやすい(低く設定しやすい)ため、それをどれだけ多く売れるのかによって、店の売上高に対しての影響力が異なるのだ。

「飲み放題〇〇円」と掲出されている飲食店は多くあるけれど、金額の元ではなく、原価に対して元を取れるほどに飲む客など、そうはいない。

だから、飲食店は昼にランチを提供し、夜はお酒を提供する。テナント料(出店代・家賃など)を出している以上は、少しでも長く営業し、客に足を運んでもらっては料理や酒を飲み食いしてもらうことで、どうにか売上を高くしたいと躍起になる

そんな飲食業界において、いわゆる「ホワイト企業」なんて存在し得ないと考えていたのだが、佰食屋はその固定概念を根本から覆してくれた。

その上、ぼくの両親が苦しみながらも営んできた飲食業界の慣習に対し、成功事例として名を馳せさせながら、あえて「売上を減らす」ことを謳い、その理由が「社員を犠牲にしてまで「追うべき数字」なんてない」と言い切る。

両親やぼくの仇討ちをしてくれた、と感じた

ぼくはこの本を手に取ることで、どこかでこう感じた。

「(両親の)仇を討ってくれた」

先にも触れたが、ぼくは父親が創業した店を継がなかった。

それは、飲食業会の大変さを身に染みて感じていたからだし、自分が家族を持った際に、そこへ付き合わせるだけの覚悟を持とうとも思えなかったからだ。

それに加え、幼少時から父親は「継がなくていい」とも声をかけてくれていて、二言目には「自分が勝手に始めたことだ」と、田舎町に蔓延る関係のない大人たちが囃立てる「2代目」という雑音を断ち切ってくれていたのも大きい。

ぼくも年齢を重ね、それなりに理解できるようになった頃に改めて「自分は父親の事業を継いだ方がいいのではないか」と考えるようになったものの、考えれば考えるほどに「創業者以上の気持ちを持って事業に当れないのであれば失礼だ」としか思えず、それ以外の道で「自分と家族を養うために生きる」選択をした。

自分の満足感もそうだし、家族の満足感も含めて、自分の人生において飲食業を営むのは、それに値しないと判断したのだ。

自分が働きたい会社にしたい

佰食屋を運営する中村さんが書いた本書内には、家族への思いや社員への想いなどが綴られており、営業時間や食数を限定的にしているのは「自分たちが家族と過ごすため」と正直に書いてある。

そして何より「自分が働きたい会社にしたい」と切実に述べている点が、飲食業界の悪しき慣習に釘を刺してくれているようでいて、並んでいる字面を読んだ瞬間にスカッとした。

それでいて、いま「出来ているから」と驕り高ぶることなく、「時代によって価値観も変わるし、それに合わせて価値を見出し、仕組みかすることこそ自分の役割だ」と、あくまでも謙虚に書かれている姿勢に対して、尊敬の念を抱かずにはいられない。

中でも「自分が幸せかどうかを決めるのは自己決定権」と書いている部分は大いに納得した上に、誰でもない自分こそが「幸福への自己決定権」を保持しているのだと考えられる世の中になって欲しい、とぼくは考えている。

他人のせいにすることなく、自分の幸福を自分自身でこそ叶える権利を有しているし、誰でもない自分だからこそ、自らの幸福を叶えられるのだ、と。

佰食屋の経営っぷりは、多くのメディアにも登場しているため、決して珍しいものではないが、本書内には社員たちのインタビューが所々に散りばめられている。そこで彼らが話している言葉を読むと、飲食業界の中でこれほどにすんなりと店の内容について話せるものか、と感慨深いものがある。

それこそが、経営者である中村さんが考える社員像であり、「幸福の自己決定権を有する人物たち」と認めている証拠なのだと感じる。

読後感は、何とも言えない満足感に満たされて、空腹感も満たされたような気がした。それは生理学的な「満腹中枢からの電気信号」ではなく、「こころ」の部分での満腹感を覚えたからかも知れない。



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