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愛媛のしっぽで暮らす。みかんアルバイター体験記 3

2011年11月~12月、愛媛県西端の伊方町でみかんアルバイターとして暮らした1ヵ月半の記録。

「ひろい」と荒れる山

こちらへ来て3回目の日曜日は、Mさんのみかん山でお手伝い。
Mさんは平日は農協にお勤めなので、みかんの仕事ができるのは土日だけ。
今日の収穫は「ひろい」と呼ばれ、最後に取り残した実を全て収穫する仕事。

きれいに色づいた実はすでに収穫が終わっており、残っているのは日焼けしたり黒ずんだり、シワシワだったりするものばかり。木に付いてはいるが残り物を「拾う」ような感覚だ。

これらの実を木に残したままだと木が弱るし、不細工とはいえジュースにはなるので、残さず収穫する。
きれいなオレンジ色の実を収穫するときは楽しくて、採り終えた時にも達成感があるのだが、今日の実はそれがない。

「この作業を一人でやってると、気が滅入る」とMさん。
農地の一番端の木は葉や実が必要以上に多く、ぶどうの房のように実がくっつきあい、形がひしゃげているものもある。
枝にはツタやカズラが絡みついていて、採りにくいことこの上なかった。

ブドウのようにくっついたみかん

隣の山が廃業されたため雑木林状態になり、日陰になるので隣の雑木を切るのに時間がかかり、端のその1本は摘果や手入れができなかったそうだ。
何年も放っておいたわけではなく、この夏の手入れができなかっただけでこんなひどい状態になるのか、と驚いた。

私たちアルバイターは、収穫だけのいいとこ取り。
木の手入れや草刈り、防風林の手入れ、山道の整備、獣害対策、薬剤散布など、収穫までの10カ月の仕事の大変さをあらためて知る。

「猪避け用の鉄柵は1枚650円もする。それを山中に張り巡らせにゃいけんのやけん、何枚要ると思う?」。それでも昨年は猪に入られたそうだ。
みかん農家はかつての3分の1に減ったそうだが、高齢化だけが原因だとは言えない。

イノシシ除けの鉄柵。立てるだけでなく地面にも必要

山でランチ

農家のみなさんは、みかん山へ仕事に行くことを単に「山へ行く」と言う。逆に「海へ行く」とは、「釣りに行く」ことらしいと最近気づいた。

ここへ来て初日の歓迎会のとき、農家さんの小学生の子どもさんが自己紹介で「山か海なら、僕は海に行く方が好きです」と言った。
そのときは、山登りやハイキングへ行くよりも、海で泳ぐ方が好きなのかな、と思っていた。

後日、その子がみかんの袋がけの仕事を手伝うとお小遣いがもらえること、休みの日にはお父さんと一緒に海へ釣りに行くことを知った。
ここでは、「山へ行く」=「仕事に行く」ということなのだ。

今日入ったIさんの山では親戚の方や地域の方も手伝いに来られており、Iさんのお母さんがお弁当を用意してくださっていた。
農道に車を停めて、カセットコンロでお湯を沸かし、即席のお味噌汁も作ってくださった。
お天気もよく、海の見える農道でいただくランチは最高!

休憩中は、Iさんのお母さんとお手伝いの女性2人の、花の70代トリオの伊予弁トークが炸裂。
「昔な。ばぁちゃんの弁当が入った袋をカラスがくわえて逃げたんと。それでばぁちゃんがカラスめがけて鎌を投げたら、それもどっか行ってしもうたって」
(鎌投げるって…こわッ)
「孫がな、私の腹見て、おばぁちゃんそのお腹どげしたん?と」(三段腹?)
「うちの嫁がいよいよ太ってから、関取みたいになっとるわ」
「それ嫁さんに直接言うたらいけんよ。ふくよかになったねぇと言うとかんと」(笑)

 休憩中は賑やかだが、収穫が始まるとパチン、パチン、パチンとみかんを切り取るハサミの音もリズミカルで早い!
トークにも収穫のスピードにもまったくついていけないのであった。

イカが動いた

こちらへ来て1カ月になるけれど、まだ雨は2回しか降っていない。晴れ女パワー発揮中。
今日も朝日がきれい!
みかん山から見る海がきれい!!

南予のみかんがおいしいのは、「3つの太陽があるから」と言われている。太陽の光、海からの反射光、そして段々畑の石垣からの反射光。三方から光が当たるので、みかんがきれいに色づき、甘くなるのだそうだ。

ある夜、晩ご飯を食べていると、釣り好き一家のMさんから、弟さんが釣ってきたというアオリイカをいただいた。すでにさばいてある。

1日置いた方が甘みが出て刺身も美味しいと言われたが、少しだけ味見しようと白い透明な身に包丁を入れた。
 ピクッ。
あれ? 今動いた?
もう一回包丁を入れてみる。
 ピクッ。
やっぱり! 身がキュッと縮まるように一瞬動く。

学生さんもやってみたが、やっぱり動く!!
二人してワ~キャ~言いながら、透明なイカの刺身を一口食べる。旨い!

次の日、学生さんが「イカのお寿司が食べたい」と言うので、玉子焼も作って握り寿司に。
いただいた明太子と鰻が冷蔵庫にあったので、巻きすを借りてきてイカ明太巻、うな胡巻、新香巻も作った。

残りのイカは、ニンニクバター醤油炒めに。これがまたビールに合う!
今日も豪華!!
イカをくれたMさんと、巻きすを借りたHさんにもお寿司をお裾分け。

学生さんが作ったチーズケーキみかんソース添えと一緒にお届けした。
食材やおかずのあげあいは連日連夜。
もうすっかり、ここの住民みたいだ。

みかんあれこれ


♪これもみかん、あれもみかん、たぶんみかん、きっとみかん♪

みかんの収穫をして一番驚いたのは、同じ品種でも木によって実の大きさに差があること。
多少の大小はあると思っていたが、ここまで幅広いとは思わなかった。

「こたつにみかん」のイメージ通りのみかんは、SかMサイズぐらい。
実際にはそれより小さい2Sや3S、さらに小さく金柑か!と言いたくなるおチビちゃん。
そうかと思えば、伊予柑ですか?と聞きたくなるデカいサイズ。
さらにグレープフルーツか!と落としそうになる横綱級も。

ぜ~んぶみかん。左の2つ以外は規格外になる

実の大きさの違いは、もちろん天候や場所などの環境にもよるが、一番の原因は枝の剪定や摘果など木の手入れの差だという。

特に摘果ができていないと、1つの枝に実がつき過ぎて、1つずつの実が小さくなる。
収穫のとき、小さい実をとってもとってもとっても減らず、全部取り終えるのに何時間かかるねん!と思ってしまう木もある。

小さ過ぎる実は収穫に手間と時間がかかるのに、出荷してもほとんどがジュース用になるため、キロ当たりの値段はびっくりするほど安い。

金柑サイズのをむいて食べてみたが、ものすご~く甘い! 
小さすぎて皮をむくのが大変だけど。
あんまり可愛いので、ケーキのデコレーションなんかに丸ごと並べたら「映えそう」と思ったりもする。

金柑? いいえ、みかんです。

大きい伊予柑サイズのは、水っぽくはあるけれど甘すぎず、これはこれで好きな人も結構いるのだが。

曲がったキュウリや虫食いのある葉物もそうだが、味は変わらないか逆に美味しいのに、形やサイズや見た目で判断されてしまう農作物のなんと多いことか。
みかんを収穫しながら、そんなことを思う。




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